“宝物”は、安易に人に見せず大事にしまっておくものである。調子に乗って見せびらかしたら誰かに盗られてしまう恐れもあるから。だから本当は、誰も踏み入れない場所に仕舞っておいて、なんなら鍵までかけておくべきだ。それくらいしたって良いと思う。宝物は2つも3つも必要ない。たった1つでいい。僕の全てを捧げてでも守りたいもの。代替品はきかない、唯一のものだから。
「こんど、手錠でも買ってこようかなぁ」
「え?」
僕の口からあまり聞き慣れない単語が出たせいか、彼女はすごい勢いで振り向いた。穏やかじゃない話なのは間違いないかもね。だって捕まるのはキミなんだから。
「その……何のために?」
「知りたい?」
ふふふ、と意味有りげに笑ってみせた。こんな話は素でするもんじゃない。けど本当に、キミを僕しか知らない場所に閉じ込めたいなって思ってる。流石に光も音も届かない場所は可哀想だけど、地上でも以下でもこの際どっちでもいい。兎に角、僕しか行けない場所にキミを隔離していつでも会えるようにしたいんだ。それが僕の理想。
「年末の忘年会でさ。なんか寸劇やらなくちゃいけなくなっちゃって」
「……それで必要なの?」
「うん。僕は警察官役だから」
「なぁに、それ。……ふふっ、おもしろそう」
実際。本当に閉じ込めたら今みたいにキミは笑わなくなるだろうな。僕の大好きな笑顔を奪うまでしてそんなことはしたくはないな。だから理想は理想のまま。日常生活の中で、同じように生きて、笑って過ごせるほうがずっとずっと良いからね。
物騒なこと考えちゃってごめんね。行動には移さないけど、それぐらい僕の愛は重いってこと。許してね。
と、同時に覚悟もしてね。僕の愛からはもう逃げられないってことだから。
11/20/2023, 10:19:31 AM