つつも

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2/12/2024, 2:09:32 PM

【伝えたい】

今日は娘が行事の振り返りということで学校が休みだった。簡単に家事を済ませた私は、もうすぐ来る娘の誕生日に備えてプレゼントを選びに2人で買い物に出かけた。

ある程度の下見を済ませたあと、夫と相談するためにいくつかの品物をピックアップする。
「ママ、お腹空いた」
娘は私の服を引っ張りそう伝える。時計を見るといつの間にか、時刻は昼を過ぎていた。
「ごめん、ごめん。お昼食べようか」
そう言って私たちは近くの飲食店に入った。

ご飯を食べたあと、普段は頼まないデザートを娘と選ぶ。平日に娘と買い物という、普段と違った日常に特別感を覚えたのかもしれない。
娘も、滅多にない注文に目を輝かせていた。
「パパには内緒だよ。羨ましがっちゃうから」
と言い、口元に指を立てると、娘も同じように口元に指を当て頷く。

その夜、夫が仕事から帰ってくる。娘は駆け出して夫にしがみついた。
「パパ、パパ。あのね、ママと買い物行ったんだよ」
嬉しそうに報告する娘に、夫はそうか、そうかと相槌を打つ。すると、今度は小声で、
「あとこれ内緒なんだけどね、甘くて美味しいの食べたんだよ」
と口に手を当てて笑う。
私はその隠しきれてない言葉選びを見て思わず笑ってしまい、夫は、美味しいもの?いいなぁ。と声を出す。

内緒、と言いつつもこの喜びを共有したいくらい伝えたかったのだろう。そんな娘を見て私もなんだか嬉しくなった。

2/11/2024, 2:30:57 PM

【この場所で】

これは、私が体験した不思議なお話。
子供の頃、私は廃神社で遊んでいた。その神社は階段が長く、裏は林になっている。健康目的の年配以外立ち寄ることの無い場所で、ちょっとした隠れ家気分だった。

ある時、私がその場所に行くと小さな男の子が居た。少し驚いたが、話しかけるとすぐに仲良くなった。
男の子はいつも決まって日の出てない曇りの日に現れる。子供の直感とでも言うのだろうか、私はその子が普通の人では無いと薄々感じていた。

しばらくした頃、私は親の都合で引っ越すことになり、この土地を離れることになった。
男の子に告げると、彼は寂しそうな顔をした。
そこで、ある提案をした。タイムカプセルだ。
お菓子の缶にそれぞれ宝物を入れ、10年後にまた来るから、一緒に開けようと彼に伝える。
しかし、彼は寂しそうな笑顔を浮かべたまま頷くことは無かった。

それから10年たった今、私は再びこの地を訪れた。以外にも、廃神社はそのまま存在していた。
天気は曇りだが、彼が現れることは無かった。
私は10年前の記憶を頼りにお菓子の箱を見つける。
蓋を開けると、私の入れたおもちゃと、少量の動物の毛が入っていた。

2/11/2024, 8:47:22 AM

【誰もがみんな】

「すみません、ちょっと手伝ってもらっていいですか?」
私は目の前を歩くカップルに声をかけた。2人は立ち止まって私を見る。

「自販機で飲み物を買いたいんです」
私は続ける。生まれつき障害を持っていて、ほとんど体が麻痺してしまっており車椅子生活で、言葉さえもまともに伝えられない。
そのためか、女性が聞き返してくる。
「飲み物買いたいです」
なかなか出てこない言葉を一所懸命に絞り出し、もう少し簡潔に伝える。

すると女性は笑顔で頷いたが、目が空を見ていた。おそらく伝わってはいない。こういうことは初めてでは無いので、何となくわかった。
しかし男性は聞き取ってくれたようで、
「どれがいいですか?」
と、自販機に向かって私に尋ねた。その横で、女性が納得した表情を浮かべる。

あと数回のやり取りを繰り返して目当てのものが買えた私は2人にお礼を言って別れた。
こういう依頼は誰もが聞いてくれるわけじゃない。複数人でいる人を狙うと成功しやすい。

多分、私も健常者だったらこんな面倒臭い人に絡まれるのは嫌だっただろう。
しかし、生まれつきなものはどうしようもない。
障害云々に限らず、誰もが手を取り合って生きて行けたらいいのにと、時々思うのだ。

2/10/2024, 9:09:26 AM

【花束】

小銭片手に花屋に経つ少年。
勇気をだして、店内に入り1輪の赤いカーネーションを手に取った。リボンで飾り付けられ、店を飛び出すと、誰にも見られたくない思いで走り出し家に帰る。
夜、母親が帰宅する。仕事から帰って食事の支度をする母に、少年は恥ずかしそうにしながらカーネーションを差し出した。

-……。
目を覚ました俺は自分が寝ていたと気づくまでに少し時間がかかった。ボーッと、先程まで突っ伏していた机を眺める。
懐かしい、子供の頃の記憶を夢みていた。本当はあの時、たくさんの花をプレゼントしたかった。子供の小遣いで買える精一杯の感謝の気持ち。

眠気を覚ますため、俺はふらっと街に出る。
その時、偶然通り掛かった花屋の前で足を止めた。さっきの夢の影響か、俺は店の中に入る。
店を回ると、小ぶりの可愛いブーケを見つけた。それを手に取ると、会計を済ませて店を出ていた。
購入するつもりはなかったが、このブーケを見つけた瞬間何故か夢のことが脳裏に過ぎったのだ。

こんな何でもない日に急に実家に帰って、母さんにプレゼントしたら変に思われるだろうか。
そう思いながら、今は少し離れて暮らす母親の家に足を向けるのだった。

2/8/2024, 3:54:50 PM

【スマイル】

私のクラスにはいつも一人でいる女の子がいる。去年の夏頃に転校してきたらしいが、クラスに馴染めず孤立してしまったようだ。
小学4年にもなると、クラス替えをしてもグループができてるし輪に入りにくくなる。

私はその子が少し気になったが、今の安定したグループに変化があるのを恐れて話しかけられないでいた。
その子はいつも無表情で、国語の音読の授業以外で声すら滅多に聞かない。休み時間は隅で本を読んでいた。

ある時、その子に話しかけるチャンスが訪れた。席替えをして一緒の班になったのだ。私の学校では、放課後に班に別れて掃除をする。サボる男子を注意しながら、その子に話しかけてみた。

「男子って自分勝手だよね。掃除終わらないじゃんね」
「そうだね。あまり酷かったら先生に相談してみようか?」
意外だった。急に話しかけられて困るかなと思ったけど、普通に会話ができたと私は驚いた。

「転校してからいつも一人でいるよね。嫌じゃないの?」
「別に。最初はみんな話しかけてきたけど、うちはお父さんいないから、だからみんなだんだん避けていった」
よく分からなかった。周りと違うというのはそんなに変なのかなと、その時初めて気づいた。
だから、勇気をだして言ってみることにした。

「明日さ、私たちと遊ばない?」
正直、友達はこの子を誘ってどんな反応するか分からない。でも、この子とはなんか仲良くなれる気がした。直感ってやつ。
「いいの?」
私が頷くと、その子の表情が明るくなった。
初めて笑顔を見た。本当は寂しかったんじゃないかと思う。新しい環境に馴染めず、ずっと寂しさに蓋をしていたんだと気づいた。
「ありがとう」
その子は初めてみる笑顔で私にそう告げた。

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