つつも

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2/8/2024, 9:21:41 AM

【どこにも書けないこと】

うーん…
目の前の一枚の紙に、私は頭を悩ませた。見出しにはプロフィールカードと書かれている。

もういい歳なのに相手がいないのは流石にヤバいぞと言う周りの声に押され、私は婚活パーティーに参加したが、正直なところ全く興味無い。

カードの項目には自分の性格とか好きなタイプとか、趣味とか在り来りなものがある一方、好きな映画とか芸能人とかの項目もある。
そもそも字がそんなに上手くないわけで、これが人に見られると思うと恥ずかしい。

大体、プロフィールカードなんて、自分をよく見せたいだけの証明でしょ?なんて、随分ひねくれているなと思う。性格にはひねくれ者とだけ書いた。

項目を眺めていると、私は色んなことに興味がないのだとわかった。書くことがないのだ。
嘘を書いてもその話題に触れられたら困る。
なんでこんなものに参加してしまったんだろうと、今更後悔した。

2/6/2024, 12:32:13 PM

【時計の針】

カラン-…。
乾いた音を立てて1人の男性が扉を開けて入ってきた。
「いらっしゃい」
室内はコツコツと色々なところから時を刻む音が聞こえる。ワタシは、この時計店の店主をしている。

「すみません、修理をお願いします」
そう言って、入ってきた男性は1つの懐中時計をカウンターへ置いた。
「結構年季入っていますね」
「えぇ、祖父から譲り受けたものなんですよ」
男性は答える。とても大切に扱われていたのだろう。傷は沢山あるが 、しっかりと磨かれていて大変綺麗だ。

男性が店を出たあと、修理に取り掛かる。慎重にパーツを外し、破損したパーツは新しく作って埋め込む。
繊細で器用さが問われるが、無事動き出した時計を見ると、達成感に包まれる。

そうして依頼主にお返しをする。男性は笑顔で受け取ったあと 、
「いい音だ」
ただ一言、そう言って丁寧に時計を耳に当てた。
そんな様子を見て、ワタシ自身も嬉しくなるのだ。

今日も、またお客さんが時が止まった時計を持ってくる。
-壊れた時間、動かします。

2/5/2024, 10:26:31 PM

【溢れる気持ち】

私の友達は気が強くて頼もしい。正義感に溢れていて困っている人を放っておけない性格だ。
昔、いじめられている時に誰にも打ち明けられないでいた。
友達はそんな私の様子を察して支えてくれたのだ。

「コップにお水を注ぎ続けたら溢れちゃうように、気持ちだって同じだよ。零れているのに蓋をしちゃダメ。古いお水は捨てなくちゃ」
友達が私に言ってくれた、その言葉が深く突き刺さったような気がした。

先日、その友達は交通事故で亡くなった。運転手側の過失だそうだ。
いじめられても我慢できた涙が止まらなかった。その日私は大声で泣いた。

2/4/2024, 2:28:16 PM

【kiss】

今日は休日で仕事もない。週末は妻と2人で家事を分担して過ごしている。
ひと段落ついたところで、今度は先日産まれたばかりの娘の面倒を見る。

娘は仰向けで布団に寝そべって笑っていた。そんな娘の横に手を添えて覆い被さる。あー、うー、と声を発して小さな手足をパタパタと一生懸命振る姿に癒される。

「今日も可愛いねー」
顔ほころばせながら言う俺と、その言葉に反応するかのように動きが少しだけ大きくなる娘。
その額に思わずキスすると、さらに激しく手足を動かした。

だらしない顔のまま近くの気配に目を向けると、妻がビデオ片手に立っていて、急に顔が赤くなるのを感じた。
「ちょっ、何撮ってんの!?」
照れを隠すようにやや大声で妻に話しかける俺。
「や、だってどっちも可愛かったから」

思い出になるよ、とつけ加えて妻は笑った。傍であーあーと言いながら娘も笑っているのも見て恥ずかしくも嫌な気持ちにはならなかった。

2/4/2024, 9:37:17 AM

【1000年先も】

帰りが遅くなったある夜、俺は空を見上げた。冬の澄んだ空気によりいつもより星が輝いて見える。

そういえば昔、学校の授業で言ってたっけ。
今見えている星は実はもう存在していない可能性がある。

有名な星座じゃなければ同じ星を見つけるのも難しいけど、今こうして目に見えて、俺たちの世界で認識されているものが本当はもう存在しないと思うと、なんか少し寂しく感じるな。
あの光は存在してたことを示す唯一の証明。
…まぁ、無くなってるかどうかはわかんないけど。

たとえ消滅してしまう光があったとしても、これからずっと先の未来で、この綺麗な光たちが存在して行ければいいと思う。

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