つつも

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【時計の針】

カラン-…。
乾いた音を立てて1人の男性が扉を開けて入ってきた。
「いらっしゃい」
室内はコツコツと色々なところから時を刻む音が聞こえる。ワタシは、この時計店の店主をしている。

「すみません、修理をお願いします」
そう言って、入ってきた男性は1つの懐中時計をカウンターへ置いた。
「結構年季入っていますね」
「えぇ、祖父から譲り受けたものなんですよ」
男性は答える。とても大切に扱われていたのだろう。傷は沢山あるが 、しっかりと磨かれていて大変綺麗だ。

男性が店を出たあと、修理に取り掛かる。慎重にパーツを外し、破損したパーツは新しく作って埋め込む。
繊細で器用さが問われるが、無事動き出した時計を見ると、達成感に包まれる。

そうして依頼主にお返しをする。男性は笑顔で受け取ったあと 、
「いい音だ」
ただ一言、そう言って丁寧に時計を耳に当てた。
そんな様子を見て、ワタシ自身も嬉しくなるのだ。

今日も、またお客さんが時が止まった時計を持ってくる。
-壊れた時間、動かします。

2/6/2024, 12:32:13 PM