しきぶ

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1/15/2025, 1:56:17 PM

歩く。いつも歩く道。くたびれた商店街。
歩く。あなたの隣を歩く。
足音は重なってるのに距離がどんどん離れていく。
早足で歩く。というかもう走る。君、はやすぎ。
身長がないし、体力もないし、忍耐もないし。
ないないづくしも案外楽しい。追いかけるのは嫌いじゃない。
どうせ急に立ち止まって、店先にかかった帽子とか見はじめるんだから。その間に追いつけばいい。それだけ。

1/14/2025, 10:55:13 AM

よるにめがさめた。


静かなよる 。

明かりひとつない真っ暗なよる。

車の走る音が聞こえない。 猫の鳴き声が聞こえない。

静かなよる なのにめがさめた

私は天井をみてた。真っ白な天井。寝る前にしかみない天井。

街は眠ってた。たぶん、2時を回ってた。くるくる。

夜だけが起きてた。私は 起きてたのかもわからない。

静かなよるだった。布団を被ってたのに寒かった。

背中だけが冷たい気がした。熱かもしれないと思った。

何をするとも思わなかった。ただ、白い天井をみてた。


いつもみる天井。あれ。知ってる天井。あれあれ。知ってるはずの天井。あれあれあれ。知らない 天井?


目を凝らしてみた




白いてんじょうだった 夜なのに しろくみえた




よくみたら揺れてた、少し。ぼやぼやしてた。

人にもみえたし白いラックにもみえた。部屋に置いてたからそうみえたのかもしれない。

静かなよる。呼吸はひとつ。影はふたつ。

いる。わからないもの。しらないもの。さっきから心臓が騒がしい。

なにもない。なにもしない。ただそばにいるだけ。

ばくぜんとした不安に包まれて動けなくなった。
心臓がばくばくとなってる。ぼやぼやはなにもしない。
ただそこにいる。死んでるみたいに。それが嫌だった。
じぶんの想像力に殺されそうになる。怖い想像だけが頭の中でたくさん湧いてくる。溢れ出て、こぼしてしまいそう。
だれ?なに?どこ?どれ?あれ?あれ?あれ?

枕の中に頭が沈んでいく。身体もあとからついてきた。

水の底に落ちたみたいに、視界がどんどん暗くなる。

暗くなって意識が落ちて、私はそっと目を閉じた。

1/13/2025, 12:13:29 PM

まだ知らない景色をさがしてる。

ミルクの髪の少女が自分の髪をコーヒーにつけて溶かしてる。
道ばたで帽子をかぶった猫がギターを弾いている。
空飛ぶサメが、車に混じって信号が青になるのを待っている
そんな景色がどこかにあると思ってた。
呪いのビデオがあると思ってたし、宙から大魔王が落ちてくると思ってた。
実際は、浜に五十両の入った財布は落ちてないし、手を叩いても死神は消えない。
昔の人は外国がまた見ぬ景色だった。
もっと昔の人は他の県がまだ見ぬ景色だった。
もっともっと昔の人は山の向こうがまだ見ぬ景色だった。
今は、どこなんだろう。
空の向こうにはドーナツの星があって、食べたら無くなっちゃうんだと思ってた。
海の底にはお寿司が泳いでて、お醤油の木が生えてるんだと思ってた。
昔は知らないことだらけだった。
今は空っぽが続いてる。
海の底にも空の向こうにも何かはあるんだと思う。でも、それだけ。何かはあるけど、何も無い。
なんていうか、おもしろくない。
好奇心がぐったりしてる。
今はそんな人たちがたくさんいる気がする。
全部あきらめた人。ここが嫌いな場所。明日が怖い人。
なんか、みんなぼーっとしてる。私も、そう。
ぼーっと歩いてる。それで、知らないうちに轢かれてる。車輪の下で轢かれたことにも気づかない。
現実の列車は速い。弾丸列車よりもずっとずっと。
私たちより先に知らない場所に行って、そこがどんな場所だったか言いふらしてくる。
漫画のネタバレみたいに。
賢い人達だけがその列車に乗れる。私は乗れるかな。
私より先にいる人、みんなうざったい。
どくどくしい気持ちが、どくどくと身体に染み込んでくる。
おもしろくないし、たのしくない。
ネットで調べたらどこでも行ける。なんでも知れる。
便利なんだけど、うーん、なんだろ。
わかんないけど、何かが空っぽになった。
私の中のバッテリーがどんどん減ってきてる。
知らないものが欲しい、知りたい。充電するために。
だから今日もふらふらと街を歩いてみる。
よく知ってるカフェに知らないメニューがあった。
紅茶にヤクルト混ぜるんだ。おいしいのかな。
知らない味だった。知らないけど、なんとなく美味しかった。
何かが満たされて、知ってることがまた増えた。

1/12/2025, 7:53:21 PM

カップ一杯のコーヒーから湯気がたつ。
ふわふわと宙へのぼっていく。
『これが雲になるんだよ』
トゥトゥはそう言った。銀のスプーンでコーヒーをかき混ぜながら。
『じゃあ時々私たちの口からでる白い煙も雲になるの?』
『そうだよ。そうやってたくさんの人が雲を作るから、あんなにたくさんあるんだよ』
『じゃあ雲はこれからどんどん減っちゃうね』
ふううっと息を吐いてみる。白い息はでなかった。
『かなしいね』
『うん、かなしい』
せーのでコーヒーを飲む。ぐっと口に近づけると大人っぽい匂いがした。
はじめてのコーヒーの味は、苦かった。
『大人ってこういうの好きなんだ』
トゥトゥはスプーンでちょいちょいとすくいながらコーヒーを飲んでいた。
『大人になるときっと、苦いって気持ちが美味しいって気持ちに変わるんだよ。コーヒーが美味しいって大人になるってこと』
『じゃあ私たちまだ子供だね』
トゥトゥはそう言った。私もそうだとおもった。
大人ってなんだろう。
苦いのが飲めるのに、高いところに手が届くのに、重たいものが持てるのに、どうして喧嘩するんだろう。
崩れたビルが、崩れたビルを支えている。
ちょうど、人の漢字みたいに。
くやくしょだった場所に草がたくさん生えている。
学校だった場所が森になっている。
テレビで大人の人が言ってた。自然を増やさないとって。そのためにこうなったの?
『ねえ、ゆーちゃん。どっちが夢だったんだろうね』
トゥトゥがそう言った。
『もしかしたらって思うんだ。もしかしたら、これが夢で、目を閉じたらベッドの上にいるんじゃないかって。それとも、あの日々が、夢、だったりして』
トゥトゥがそう言った。
『私は夢をみないからわからないけれど、貴方が夢だと思うなら夢なのかもしれないですね』
『ゆーちゃん、話し方、覚えてる?』
『ああごめんね。忘れてた。うん、私は夢じゃないと思うな』
たまに話し方を忘れる。何回も教えてもらったのに。
たまに忘れそうになる。私が嘘をついてるのか、 私に嘘をついてるのか。
トゥトゥは大人の真似事をしてる。
私は、子供の真似事をしてる。
灰の雲から黒い雪が落ちてきた。トゥトゥが咳をする。
『大丈夫?』
『うん、大丈夫。ちょっとむせただけ』
私も咳をしようか迷った。でもトゥトゥが嫌がりそうだからやめた。わざとらしいのは嫌いみたい。
壊れたビルはかろうじてその外観を保っている。唯一爆発を免れた少女は逃げることもせず、ただ崩れた瓦礫の椅子に腰掛けている。
私は救助に来ただけの機械だった。
はじめて会った時、彼女が言ったのは助けてではなく、おかえりだった。
本来そのセリフを言うはずの人間は二人とも瓦礫の中に沈んでいる。臭いで何度か起こされる彼女をみた。
私は機械だった。今はどうかわからない。
いま私はトゥトゥにとってのなんなんだろう。
友達なのかな、家族なのかな、ペットなのかな。
トゥトゥは語らない。ゆーちゃんはゆーちゃんだって、それしか教えてくれない。
きっとトゥトゥは夢をみてる。夢を、みようとしてる。
あの日の続きを。突然奪われてしまった日常の続きを。
きっと、壊れようとしてる。これが夢だと思い込むために。なのに、匂いが、色が、音が、忘れさせてくれない。ずっと夢から覚めてしまう。
『ゆーちゃんはさ、生きてて楽しい?』
コーヒーを飲んだのに、トゥトゥの声はかわいていた。
『うん、楽しいよ。トゥトゥがいるから、楽しい。トゥトゥが生きてると嬉しいし、トゥトゥが色々教えてくれるのが好き、だから楽しい』
プログラミングされたものじゃなくて、本音だった。
そう信じてる。私は他の機械とは違うから。
きっと私も、そんな夢をみてる。

1/11/2025, 3:21:58 PM

冷たい雪が、首もとに触れる。
冷たいけれど、ふかふかのカーペットみたいでねっ転ぶと気持ちいい。
吸い込まれそうなくらい濃い青が、目の前に広がっている。
ふぅっと息をはくと、白い煙が綺麗な空に落ちていった。
『わたしたち、このまま死ぬのかな』
さよちゃんがそう呟いた。
みると、さよちゃんは冷たい雪の上に座っていた。
座って、遠くをみていた。
『さよちゃんと一緒ならいいかも』
なんとなく、そう言ってみた。
『わたしはまだ生きたい、かも』
私も、って言えなかった。言ったら話が終わっちゃう。
終わったら、きっと全部が終わっちゃう。
『どうして?』
そう聞くと、さよちゃんは下を向いて答えた。
『宿題がまだ終わってないから。明日提出なのに』
やっぱりさよちゃんは真面目だと思った。私はそんなことすっかり忘れてた。
『不思議だよね。ここも私たちの住んでる世界のひとつなのに、なんだか、違うみたい』
さよちゃんは遠くをみて言った。
遠くをみてた。
下の方に広がってる街をみてた。
多分、わたしたちのいた場所をみてた。
『ここはきっと天国にちかいんだよ。だって高い場所にあるでしょ。それに、ふかふかだし。妖精さんはふかふかな場所が好きなんだよ』
私がそう言うと、さよちゃんは答えた。
『そう、そういえば、妖精さんを探しにきたんだったっけ。それで、お母さんの言うこと聞かずにてっぺんまで登って、…そうなんしちゃったんだっけ』
-きっと神様がみてたんだ。さよちゃんはそうつけ加えた。
ごめんねと言い出せなかった。私が誘ったのがいけなかったと、言えなかった。
世界がちかちかする。少しずつ、ぼやけていく。
寒い。
雪ってこんなに寒いんだ。雪山ってこんなに怖いんだ。
寒い寒い寒い
ぎゅっと、重たいものがのしかかった。
重たいけど、軽い。なによりも、あたたかい。
白い煙が顔にふれた。
『こうしたらあったかいでしょ』
こんなに近いのに顔がみえない。
こんなに近いのに、声が遠い。
『うん、あったかい
火傷しそうな目から、なにかが零れ落ちた。

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