しきぶ

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冷たい雪が、首もとに触れる。
冷たいけれど、ふかふかのカーペットみたいでねっ転ぶと気持ちいい。
吸い込まれそうなくらい濃い青が、目の前に広がっている。
ふぅっと息をはくと、白い煙が綺麗な空に落ちていった。
『わたしたち、このまま死ぬのかな』
さよちゃんがそう呟いた。
みると、さよちゃんは冷たい雪の上に座っていた。
座って、遠くをみていた。
『さよちゃんと一緒ならいいかも』
なんとなく、そう言ってみた。
『わたしはまだ生きたい、かも』
私も、って言えなかった。言ったら話が終わっちゃう。
終わったら、きっと全部が終わっちゃう。
『どうして?』
そう聞くと、さよちゃんは下を向いて答えた。
『宿題がまだ終わってないから。明日提出なのに』
やっぱりさよちゃんは真面目だと思った。私はそんなことすっかり忘れてた。
『不思議だよね。ここも私たちの住んでる世界のひとつなのに、なんだか、違うみたい』
さよちゃんは遠くをみて言った。
遠くをみてた。
下の方に広がってる街をみてた。
多分、わたしたちのいた場所をみてた。
『ここはきっと天国にちかいんだよ。だって高い場所にあるでしょ。それに、ふかふかだし。妖精さんはふかふかな場所が好きなんだよ』
私がそう言うと、さよちゃんは答えた。
『そう、そういえば、妖精さんを探しにきたんだったっけ。それで、お母さんの言うこと聞かずにてっぺんまで登って、…そうなんしちゃったんだっけ』
-きっと神様がみてたんだ。さよちゃんはそうつけ加えた。
ごめんねと言い出せなかった。私が誘ったのがいけなかったと、言えなかった。
世界がちかちかする。少しずつ、ぼやけていく。
寒い。
雪ってこんなに寒いんだ。雪山ってこんなに怖いんだ。
寒い寒い寒い
ぎゅっと、重たいものがのしかかった。
重たいけど、軽い。なによりも、あたたかい。
白い煙が顔にふれた。
『こうしたらあったかいでしょ』
こんなに近いのに顔がみえない。
こんなに近いのに、声が遠い。
『うん、あったかい
火傷しそうな目から、なにかが零れ落ちた。

1/11/2025, 3:21:58 PM