しきぶ

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まだ知らない景色をさがしてる。

ミルクの髪の少女が自分の髪をコーヒーにつけて溶かしてる。
道ばたで帽子をかぶった猫がギターを弾いている。
空飛ぶサメが、車に混じって信号が青になるのを待っている
そんな景色がどこかにあると思ってた。
呪いのビデオがあると思ってたし、宙から大魔王が落ちてくると思ってた。
実際は、浜に五十両の入った財布は落ちてないし、手を叩いても死神は消えない。
昔の人は外国がまた見ぬ景色だった。
もっと昔の人は他の県がまだ見ぬ景色だった。
もっともっと昔の人は山の向こうがまだ見ぬ景色だった。
今は、どこなんだろう。
空の向こうにはドーナツの星があって、食べたら無くなっちゃうんだと思ってた。
海の底にはお寿司が泳いでて、お醤油の木が生えてるんだと思ってた。
昔は知らないことだらけだった。
今は空っぽが続いてる。
海の底にも空の向こうにも何かはあるんだと思う。でも、それだけ。何かはあるけど、何も無い。
なんていうか、おもしろくない。
好奇心がぐったりしてる。
今はそんな人たちがたくさんいる気がする。
全部あきらめた人。ここが嫌いな場所。明日が怖い人。
なんか、みんなぼーっとしてる。私も、そう。
ぼーっと歩いてる。それで、知らないうちに轢かれてる。車輪の下で轢かれたことにも気づかない。
現実の列車は速い。弾丸列車よりもずっとずっと。
私たちより先に知らない場所に行って、そこがどんな場所だったか言いふらしてくる。
漫画のネタバレみたいに。
賢い人達だけがその列車に乗れる。私は乗れるかな。
私より先にいる人、みんなうざったい。
どくどくしい気持ちが、どくどくと身体に染み込んでくる。
おもしろくないし、たのしくない。
ネットで調べたらどこでも行ける。なんでも知れる。
便利なんだけど、うーん、なんだろ。
わかんないけど、何かが空っぽになった。
私の中のバッテリーがどんどん減ってきてる。
知らないものが欲しい、知りたい。充電するために。
だから今日もふらふらと街を歩いてみる。
よく知ってるカフェに知らないメニューがあった。
紅茶にヤクルト混ぜるんだ。おいしいのかな。
知らない味だった。知らないけど、なんとなく美味しかった。
何かが満たされて、知ってることがまた増えた。

1/13/2025, 12:13:29 PM