※物語です。
私は君が大嫌いだ。
遠慮のない言葉も誰にでも見せるいたずらっぽい笑顔も。
「なんかお前って作ってる感あるな」
入学初日に言われたその言葉。第一印象は
_何こいつ
デリカシーの欠片もなくて、私が隠していた本性まで見抜かれた気がした。
誰に対しても同じ対応のようなのに友達も多く人気な存在だった。私はそれでも受け入れられなかった。運悪く、その子は私の隣の席だった。また何を言われるものかと警戒して過ごしていたが、初日のことは忘れたかのように当たり前に話しかけて来たのが腹が立った。それでも優しく心を落ち着かせて対応していたのにまたしばらくしてこんなことを言った。
「その作った性格っていつまで続けるの?」
「そんなの君には関係ないじゃん」
私は苛立ちのあまり睨みつけながら返してしまった。図星だったから、腹が立った。いつからか素を出して生活することへの恐怖を感じていた私は、人目を気にして作った自分で過ごしていたのだ。今までそのことについて指摘されることはなかったし、気付いたとして触れないでほしい部分だった。とはいえこれまで隠してきた本性を顕にしてしまい焦っていた。
_私は君が大嫌いだ
「その方がいいじゃん!」
突然君はそう言った。
「は?」
意味がわからず顰めた顔をあげるときらきらした表情の君がいた。
「今まではなんか読めないっつーか何考えてるか謎だったから怖かったけど、俺今のお前の方が好きだ」
君は無邪気な笑顔でそう言った。それまでよく見ていなかったけど少年のような顔付きで笑顔が似合う眩しい人だった。
それからだと思う。君に対する気持ちが変化したのは。
_誰にでもあの笑顔見せてるんだろうな。
やっぱり私は君が大嫌いだ
この気持ちを伝えることが出来たらいいのに
大好きな君に
年に一度の女子の成長を祝うめでたい日。積み上がったひな壇には三人官女、五人囃子、右大臣、左大臣が綺麗に並んでいる。そして一番上には柔らかい表情を浮かべるお雛様とお内裏様が座っている。
今宵は年に一度顔を合わせることができる日。
少しだけその会話覗いて見ませんか?
「お雛殿、久しいですね。
やっとその美しいお顔を拝見できますよ」
隣に並ぶお雛殿に声を掛けるとクスッと笑って私を見た。とても綺麗な顔立ちで真っ黒な澄んだ瞳が私を捉える。
「まあ、相変わらず調子の良い事を。毎日お話しているでしょう?」
少し呆れたような、でも優しい口調でそう言った。
「そうはおっしゃいましても普段は箱の中にいるものですから。それにしても年に一度しか会えないのは寂しいと思いませんか?」
私たちはいつもは木箱に入れられ暗い場所で過ごしている。それでも会話はできるため退屈はしていない。だからといって寂しくない訳では無い。
_彼女ならそれくらいが丁度いいとでもお思いでしょうけど
長年連れ添ってきた妻だ。夫婦という関係でありながらもどこか掴みどころのない彼女の気持ちはよく分からない。私の片想いでは無いかと疑いたくなるほどだ。しかし彼女の口から出たのは以外な言葉だった。
「年に一度しかないからこの日が大好きなんですよ」
手元の扇子で顔を隠しそっぽ向いた。よく見ると耳は赤く染まっている。
「お雛殿はやはり私のことを大切に思われているのですね。とても愛らしいです」
珍しく照れているお雛殿にそっと笑いかけた。
今宵は年に一度のひなまつり。
そこにはどんな物語があるのでしょうか。
我が家には神様がかわいいものを全て詰め込んだのかという位愛くるしい猫がいる。
オス猫でイケメンな顔をしていながら声が高くてかわいい。
普段は一緒に寝ている祖父にしか寄って行かないくせに都合のいい時だけ私の足元をウロウロしてキラキラした瞳を向けにゃーと鳴く。
自分がかわいいことを理解し、有効活用しているに違いないのだが、そんなところも含めてかわいい。
少しあざとい我が家のアイドルだ。
そのアイドル様はあざとくて自由で優しい。
学校で上手くいかなくて誰にもバレないように泣いていると1番に気がついてすり寄ってくる。
そして泣き止むまで何も言わずそばにいてくれるのだ。
普段は呼んでも来ないくせに。
小さな命は私にとって大きな存在。
※物語です
「I love you」
「…へ?」
幼なじみとの帰り道突然放たれたその単語に足を止める。物心ついた時から、いやそれよりも前からずっと一緒にいる幼なじみの恵佑は時々変なことを言う。
彼は何が本気でどんな意図で発言しているのか分からない。もう何年も一緒なのに単純な私は泳がされてしまう。掴みどころがないというか、そんな性格だ。
「って日本語で愛してるじゃん?」
_今度は何を言うかと思ったら
ため息混じりに頷く。
「それって2つの場面で使われるらしいよ」
「んっと、どういうこと?」
突然どうしてそんな話になるのかは謎ではあるが、少し興味深い内容でもあり聞き返した。
「家族に対して日常的に言うI love youと
恋仲の相手に対してI love you
どっちも愛してるって意味だけど込める意味は全然違うでしょ?」
私の顔を覗き込み少し口角をあげる恵佑。切れ長で形の整った瞳が私を捉える。そうかもね、と適当に相槌を打って目を逸らす。
やっぱり恵佑は何を考えているか分からない。
私は無愛想な方で読めないとよく言われるが、恵佑そういう感じでもない。
優しそうに見えて意外とドライで、チャラそうに見えて付き合ったこともない。
そこに魅力を感じる人も多いようだが。
「あおちゃん」
「ん?」
突然名前を呼ばれそれだけ返す。気づいたら私より後ろを歩いていたようだが気にせず進む。
「愛してる」
またいつものかと適当に促そうとした。しかし、後ろを振り返ると少しだけ頬が紅潮した恵佑の姿があった。
「どっちの意味か分かる?」
途端に理解し自分の頬も染まっていくのがわかった。
※物語(?)です。
太陽のような笑顔
その言葉が誰よりも似合う、そんな男の子だなと思った。
真っ直ぐで無邪気で私とは住む世界が違うんだと
心から笑っていない私とは真反対だ。
そんな嫉妬からだろう。私は彼が大嫌いだった。
真っ直ぐな心は才能とおなじ。生まれ持ったものなのだ。私がだいぶこじらせていることは自覚している。
_どこまでも可愛げ無いな…私
だけど人は自分に無い才能を持った人に惹かれるようにできているらしい。
手も届かないみんなを照らす明るい星。
「いつも大月さんってサポートしてくれるよね!」
彼はみんなに対して浮かべる笑顔を私に向けた。
_私も例外じゃないんだ
別に目立つようなことでもないのに、大したことで もないのに、そんな輝く表情を向けられたら…
私は勝手に嫌悪感を抱いていた事に罪悪感を覚えた。
それと同時に心まで照らされるような気がした。
眩しい笑顔が私を輝かせてくれた気がした。