年に一度の女子の成長を祝うめでたい日。積み上がったひな壇には三人官女、五人囃子、右大臣、左大臣が綺麗に並んでいる。そして一番上には柔らかい表情を浮かべるお雛様とお内裏様が座っている。
今宵は年に一度顔を合わせることができる日。
少しだけその会話覗いて見ませんか?
「お雛殿、久しいですね。
やっとその美しいお顔を拝見できますよ」
隣に並ぶお雛殿に声を掛けるとクスッと笑って私を見た。とても綺麗な顔立ちで真っ黒な澄んだ瞳が私を捉える。
「まあ、相変わらず調子の良い事を。毎日お話しているでしょう?」
少し呆れたような、でも優しい口調でそう言った。
「そうはおっしゃいましても普段は箱の中にいるものですから。それにしても年に一度しか会えないのは寂しいと思いませんか?」
私たちはいつもは木箱に入れられ暗い場所で過ごしている。それでも会話はできるため退屈はしていない。だからといって寂しくない訳では無い。
_彼女ならそれくらいが丁度いいとでもお思いでしょうけど
長年連れ添ってきた妻だ。夫婦という関係でありながらもどこか掴みどころのない彼女の気持ちはよく分からない。私の片想いでは無いかと疑いたくなるほどだ。しかし彼女の口から出たのは以外な言葉だった。
「年に一度しかないからこの日が大好きなんですよ」
手元の扇子で顔を隠しそっぽ向いた。よく見ると耳は赤く染まっている。
「お雛殿はやはり私のことを大切に思われているのですね。とても愛らしいです」
珍しく照れているお雛殿にそっと笑いかけた。
今宵は年に一度のひなまつり。
そこにはどんな物語があるのでしょうか。
3/4/2024, 11:05:24 AM