私の嫌いな子がクラスで避けられている。
上辺だけの友達と笑顔の仮面を被って喋るのはうんざりだけど、きっと明日もあなたが嫌われる材料が増えるのだと思うと、明日を見てみるのも悪くないと思えた。
まあ、私はどちらの味方につくかなんて言わないけど。
こちら側で面白おかしく鑑賞させてもらうね。
ーー大嫌いな君へ
2023/9.30 きっと明日も
卒業式の日。
みんながみんな泣きながら友人と高校生活最後の日を過ごしているとき。
私は1人涼しい顔をして喋っていた。
「泣かないなんてすごいね。」
と、何人に言われただろうか。
心の中では多分、
『この場の空気を読んで泣くマネぐらいしろよ』
なんてことを思っているんだろうな。
そんな冷めた考えを頭の中で渦巻かせながら、次々とこっちに寄ってくる人達の相手をしてあげる。
ーー疲れてきたし、そろそろ終わんないかな…
そんなことを思っていた時だった。
あなたが…私が1番大嫌いなあなたがこちらにやってきたのは。
『やっほー!』
「今日で最後だね。」
『ねー!あ、自覚したらまた涙が…グスッ』
「あー、泣かない泣かない」
と、ハンカチを差し出すと
『逆になんで泣いてないの〜??』
と、泣きながら言われた。
模範的な回答をする。
「高校生活は終わっちゃうけど、またいつでも会えるでしょ?」
まあ、絶対会わないけど。
だって、私あなたのこと嫌いなんだもの。
世界で1番。
でも、あなたはそれを知らない。だから、
『そうだよね!私たち、1番の親友なんだから!』
ああ、なんて…
愚かな子
まあ、いいや。
どうせこいつとも今日でおさらば
あ、終礼の時間だ。
「終礼の時間だから、教室に戻ろう。」
『うん!』
教室に戻ると、担任含め、私を除く全員が大号泣していた。
あーあ担任、アイメイクが崩れてほぼパンダじゃん。
担任「あなた達と過ごせて本当に良かった。これで私も悔いなく…!」
刹那、教室の至る所から空気が注入されるような音がした。
ザワつく教室
混乱する生徒
狂ったように笑う教師
計画通り。
私はほくそ笑んで用意していたロープを伝って窓から降りた。
地に足が付き、私はロープを勢いよく引っ張って残りの生徒の逃げ道を無くした。
教室の鍵は外からしか開けられない。
これで…
清々しく卒業できるね
私のために死んでくれてありがとう
2023/9.29 別れ際に
学校からの帰り道。
日が傾き、街がオレンジ色に染まる。
お気に入りのカフェの影が長く伸びて、私は自然とそちらに向かった。
ーーカラン
カフェに入ると、軽やかな音が出迎えた。
木目調のデザインが暖かく迎え入れてくれる。
まるで、「おかえり」と言っているように。
いつものように窓辺の席に座り、キャラメルフラペチーノとチョコレートケーキを頼む。
疲れた時も、元気な時も、甘いフラペチーノとほろ苦いチョコレートケーキを食べると、自然と笑顔になる。
少しして、頼んだものが運ばれてきた。
フラペチーノを一口飲んで、チョコレートケーキを頬張った時。
「っ...」
涙が溢れた。
学校や、家であった辛い出来事が頭にフラッシュバックする。
過度な期待。
妬み。
嫉妬。
私は、いや、私たちは、いつもいつも他人や自分の黒い心に首を緩く締められながら生きている。
片時も忘れることの出来ないそのドス黒い声たちは、捕まえた獲物を二度と離さないだろう。
でも、その声はいくらでも無視できる。
「思い通りになんてさせてやんない。」
私は涙を拭って、カフェをあとにした。
ぬるくなったフラペチーノを飲みながら家路を辿る。
さぁっと少し冷たい風が吹く。
もう、秋は始まっていたみたいだ。
2023/9.27 秋🍁
私は迫り来る試験に向けて必死に勉強していた。
お母さんの期待に応えられるように、いつもより頑張った。
これならきっと、お母さんも褒めてくれるはず…
試験当日。
勉強したところが出てしっかり解けた。
あとは結果次第だ。
テスト返却日。
先生は、学年で私が最高得点だと言った。
国語満点、理科満点、英語満点、保健満点、家庭科満点。
しかし、数学は、授業でもワークでも習っていない応用問題で1問落とし、98点だった。
自分では、なかなかよくできているんじゃないかと思う。
これでお母さんも…認めてくれるかな…
自宅にて。
お母さんにまた叱られてしまった。
理由は、数学の試験で1問落としてしまったから。
「あなたの頑張りが足りないんじゃないか」
「こんなのを間違えてどうするんだ」
「私の娘じゃない」
そして最後の一言。
「きっとお姉ちゃんだったら、全て完璧だった。」
お母さんは、私を産む前、1人子供を死産していた。
生きていたら、私のお姉ちゃんになるはずだった。
それ以来、私と、居もしないお姉ちゃんとを比べては、「お姉ちゃんだったらこうしていた」「お姉ちゃんだったら完璧だった。」
『ああ。あの子が生きていたら。』
あんたなんて産まなかったのに。
ああ、、、、、
私は…わたしは…なんのために…
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうして私は……ちゃんとできないの…?
それ以来、私は部屋を出られなくなった。
出たくなかった。
お母さんに合わせる顔がなかった。
ーーーあんたなんて産まなかったのに。
その些細な一言で私は壊れてしまった。
お父さんは私が生まれてからいなくなってしまった。
私のせいだ、とお母さんに言われた。
おばあちゃんもおじいちゃんも死んだ。
これも私のせいだ、と言われた。
私はお母さんに迷惑しかかけていない。
物心ついた頃からずっと。
ごめんね、お母さん。
迷惑ばっかりかけて。
お姉ちゃんじゃなくて、こんな出来損ないが生き延びてしまって。
これ以上迷惑をかけないために、私は消えます。
今まで本当にありがとう。
そしてごめんね。
世界で1番、大好きだよ。
そうして私は、机の上のロープを震える手で握った。
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娘が死んだ。
自殺だった。
謝罪と感謝、自分の気持ちを綴った手紙を遺して。
たった一人の娘だった。
一生大切にすると、死産したあの子にも約束した。
私なりに…私に酷いことをした自身の母親のようにならないよう、一生懸命育ててきた。
なんの気配もなくなった娘の部屋。
何かがおかしいと思ってドアを開けようとしたら、異様に重かった。
全てを悟った私は泣き崩れた。
ごめんね。ごめんね。
ーー私は…どうすれば良かったんだろう。
産まなきゃ良かったなんて思ってない。
世界一可愛くて、素直で、優しくて、一生懸命な娘だった。
大好きだった……
そして私は、あの子の隣であの子と同じロープを握った。
強く、しっかりと。
そして、薄れゆく意識の中で呟いた。
(世界で1番…愛してる…)
2023/9.4 些細なことでも
目が覚めた時、僕は不思議なカプセルの中にいた。
腕を動かすと、液体がまとわりつく感覚がした。
顔には酸素マスクが装着されていた。
気がつくと、カプセルの前に白衣を着た人物が現れた。
『01』
それが、僕に付けられた名前だった。
やがて体にまとわりついていた液体が足元から流れてゆき、カプセルの扉が開いた。
それから僕は、毎日毎日、白衣を着た人達に歩くことや食べることなど、「普通」の人間の生活を教え込まれた。
その人たちは黒い仮面を被っていて、表情が全く見えなかった。
そして僕は、外の世界に連れ出されるようになった。
とは言っても、必ず誰かが付いてきていて、決められた範囲外には出られないようになっていたのだが。
カプセルの中で目覚めたあの日から3年後。
僕はいわゆる「普通」の人間と同じように生活するようになった。
家は予め用意されていた。
会社に就職し、一人の女性と結婚した。
しかし、何となく察していた。
これは、あの人たち、白衣の人たちに元々用意されていた道なのだと。
ーーそれでも、何も感じなかった。
モニターには、例の01の姿が映し出されていた。
モニターの前には、5人の白衣の人物が並んでいる。
その中には、01の「妻」の役を担っている女も混ざっていた。
5人は無表情でモニターの前から去っていった。
後に残されたのは、1部の報告書。
そこにはこう書かれていた。
ーー実験失敗
・会話、表情に人間味が感じられない
・感情がない
「不完全だったか。」
「ああ。一体何が足りなかったのだろうか。」
「やはり人工人間というのは、難しいな。」
「01は私が処理しておきます。」
こんな会話をしながら、5人の科学者が真っ白い廊下を歩いてゆく。
完璧な人工人間を作るために。
世界を作りかえるために。
01という少年には愛が足りなかった。
2023/8.31 不完全な僕