台風は過ぎ去ったが、雨は降り続けていた。
早朝の交差点の真ん中に、銀色のUFOが墜落している。
交差点の角にあるお宅の息子さんが発見した。
父親に伝え、母親と三人で近付いてみる。
UFOは斜めに傾き、今にも爆発しそうに煙を上げていた。
雨が降り続けているのに消えない。
「おいこれ、入口はどこにあるんだ?」
「お父さん、あんまり近付いちゃダメですよ」
「中に誰かいるのかな?叩いてみる?」
キャンプ用の小さめなテントくらいの大きさだ。
三人も乗れば定員オーバーだろう。
UFOの周りをグルグル回って入り口を探すが見当たらない。
「無人探査機なのかな?どこかに母艦があってさ、そこからリモートで飛ばしてるとか」
「台風でコントロールをミスって墜落した?でもそれなら、そろそろ回収に来ても良さそうだけど」
「ところでさ、なんかさっきから地面がジャリジャリしてない?台風が砂でも運んだのかな?」
臨時ニュースが流れる。
すでにNASAでは、このUFOに乗った地球外生命体とコンタクトを取っていたという。
ところが、通信中に日本上空で台風に遭遇し、メーデーを残して通信が途絶えたと。
また、NASAの情報によれば、日本上空で嵐に巻き込まれたのは、異星人の乗った巨大母艦だったとのこと。
「ほらな、やっぱりどこかに母艦があるんだよ。これは偵察機だ」
「だけど、相変わらずほったらかしだね。母艦はどこにあるんだろう?」
しばらくして、警察やマスコミが到着し、辺りは騒然となった。
第一発見者の家族も、インタビューを受け、一躍時の人となる。
雨は上がり、台風一過の日差しが道路に反射していた。
キラキラと、地面に散らばった、たくさんの銀色破片。
嵐に巻き込まれ、不時着した星で、機体は煙を上げ、一刻も早く脱出する必要があった。
運良く宇宙船の出口が地面に接していたので、巨大母艦に乗ったたくさんの異星人が一斉に船外へと脱出する。
そしてそこで、信じられないほど巨大な三体の巨人を見たのだ。
逃げ惑い、踏み潰され、生き残った者も、その後に現れた大勢の巨人に踏み潰された。
薄れゆく意識の中で、異星人の一人は、腕に巻いたガジェットで故郷の星にメッセージを送信した。
「大虐殺の星に到着した。全滅。侵略作戦は失敗だ」
思い出の公園で、ひとりきり。
深夜のこの時間には、僕以外誰もいない。
ポツンと灯る街灯の下で、ベンチに座り音楽を聴いている。
君が僕のもとを去って半月。
今さら、何がいけなかったのかなんて、考えたところで答えは出ない。
このベンチに座り、告白をした。
あの日、わざわざこの公園まで呼び出して、ド緊張しながら隣に座ってもらって、なかなか言葉を発せずに気まずい間が流れた。
あの時点で君は、告白されるのだと気付いていただろう。
その言葉を待つ間、どんな思いでここに座っていたのか。
ほんの少しでも、幸せが訪れたと感じてくれただろうか。
そしてその幸せがいずれ、終わってしまうことも。
今は、ひとりきり。
あの日の自分と、今の自分。
同じ場所にいるのに、まったく心の中の情景が違う。
幸せを手に入れようと奮起していた自分と、幸せを見失って途方に暮れている自分。
大きな喪失感。
だけど、心のどこかで、ひとつの物語が終わって、新しい始まりを迎えるような、少しだけ自分を鼓舞する気持ちが生まれていることも事実だ。
あの日、このベンチで奮い起こした勇気を思い出して、もう一度立ち上がってみよう。
今はひとりきりでも、僕にだって未来がある。
その未来は、きっとひとりきりじゃない、誰かと一緒に築いていけると信じている。
耳に届く音楽が、優しいバラードから大好きな応援歌に変わったと同時に、僕は歩き出した。
誰もいない夜の公園を、いくつかの思い出に浸りながら歩き、出入り口のところで、立ち止まり振り返る。
「楽しかったよね。そんな時間を、ありがとう」
誰に言うともなく、素直な思いが零れ落ちた。
終りがあるから始まりを迎えられる。
その始まりは、心躍るほど喜びに溢れるものかもしれない。
今はそう信じて、思い出の公園をあとにした。
えーと、今日はね、あの食いしん坊と女子を抜きにして話がしたいんだ。
それで、青と緑に来てもらった。
いや、リーダーからの提言とか、そんな大層な話じゃないんだ。
まあ確かに、世界の平和を守るのが俺達の仕事だけど、たまにはさ、健全な男子が集まって、健全な恋バナをするのも悪くないんじゃないか?
え?黄色はなんで呼ばなかったのかって?
だってアイツは食い専門だろ?
いっつもカレーばっか食べてて、女子になんかまるで興味無さそうじゃん。
呼んでも話が盛り上がらない。
もちろんピンクは呼べないよな。
てゆーか、どっちかってゆーと、ピンクについて皆がどう思ってるのかも気になるんだよな。
ウチの隊の唯一の女子メンバーなわけだから。
え?俺?
まあ…俺は、イイ、と思ってるかな。
やっぱりさ、同じヒーローでも、女子の身のこなしって違うんだよな。
可憐っていうか、セクシーっていうか。
あのぴっちりスーツもそそられるものがあるし、闘った後に、ヘルメットを取ると広がる黒髪にもドキッとする。
どう?そんなんない?
この際だからさ、腹割って話そうよ。
青は…好きな娘とか、いないの?
え?緑と付き合ってる?
…どーゆーこと?
え?
…そーゆーこと?
い、いや、そんなのに偏見はないよ。
うん、この時代、いろんな愛の形があってイイじゃない。
健全だよ、健全。
…ただ、チビっ子達に説明するのはまだ早いかな。
まあ、腹割って話せたみたいで良かったよ。
え?リーダーにも話したいことがある?
何何?もうこうなったらさ、オープンにいこうよ。
え?ピンクは黄色と付き合ってる?
…嘘でしょ。
あの食べっぷりがイイって…勝ち目ないじゃん。
何だよそれ。俺だけが一人ぼっちってことじゃん。
なんかもう…やってらんないわ。
戦隊解散しよっかなー。
社員旅行のバスが、崖から転落した。
乗客35名、生存者2名。
僕と、同期の女の子。
マスコミが騒ぎ、しばらくの間、外を出歩くこともままならなかった。
同期の子とは連絡を取り合い、お互いの心を慰め合った。
あの地獄を経験した二人だけに、他の人には共有することの出来ない結束感があったことも事実だ。
彼女の話では、過去にも九死に一生を得たようなことが何度かあったと言う。
実はそれは僕も同じで、学生時代には雪山登山で遭難して、僕だけが生き延びた経験もある。
そんなところも意気投合して、僕達の距離は急速に縮まっていった。
当然の成り行きのように、結婚し、家庭を作り、娘が生まれた。
ある日、見知らぬ男が訪ねてきて、娘に会わせろと言う。
「あなたは誰ですか?何故ウチの娘に?」
「あなた達をふるいにかけたものですよ。結局あなた達が残った」
「何の話です?過去にどこかで会いましたか?」
「直接会ってはいませんがね。監視はさせてもらいましたよ」
「私達を?いったいどんな理由で?」
「あなた達の運の強さを確認して、最強のラッキーガールを手に入れるためです」
「ラッキー…ガール?」
「あなた達は、幾多の災難に見舞われて、それを生き延びてきた二人です。我々が起こした事故でも、それは証明されている」
「あの…バス事故?」
「そう。そこで二人の強運は揺るぎない現実となった。いくつものフィルターをかけて抽出されたあなた達二人の融合のもと、最後に奥様の体内で行われたフィルターにより、最強の幸運を備えた存在が生まれ来る…」
「いったい何を言ってるんだ?あんた。帰ってくれ」
ドアを閉めた。
ラッキーガールか…。
まあ、悪くない。
だがアイツ、きっとどこぞの組織に属していて、いずれまたやってくるだろう。
だけど僕達は、幸運を条件にフィルターされて残った、奇跡の三人なんだ。
負けるわけがない。
家族で力を合わせて、そして強運も味方に付けて、必ず撃退してやる。
結局最後まで、君の仲間になれなくてゴメン。
修学旅行ではあんなに意気投合したのに、日常に戻ったらまた少し距離が遠ざかって。
なんか、熱が冷めたっていうか、冷静になって考えたら、まったく違うタイプの人間なんじゃないかと思えたりして。
残りの学生生活は、それぞれがそれぞれの仲間とつるんで、言葉さえ交わすことは無かったね。
高校を卒業して半年後、君が集団暴行で逮捕されたと聞いた。
君がリーダー格で、高校時代からの仲間を集めての犯行だったと。
僕がそこにいなかったことに何の不思議もないが、いたとしても不思議はなかったのかもしれない。
何故って、あんなに意気投合したのだから。
タイプは違えど、分かり合えたのだから。
今となって何の思いがあるわけでもないけど、人生は分岐路だらけで、勝ち組も負け組も選択によって振り分けられる。
どちらの仲間になるか、その最終選択は自分に委ねられるとしても、そこに辿り着くまでの経験や思いが、正しい決断を歪めてしまうことだって起こり得るだろう。
僕の両手に、重たく冷たい手錠がかけられる選択。
僕達はきっと、いつだってイカゲームのように決断を迫られながら、信じたり裏切ったり裏切られたりを繰り返して、生きてゆくのだろう。
いつかこの、仲間になれなかったことを懺悔する青臭い感情を、最良の選択だったという喜びに変えられる日がきっと来る。
修学旅行でともに笑い合った、アイツの屈託のない笑顔は忘れられなくても。