Ryu

Open App
1/25/2025, 10:42:50 PM

「そして、王子様とお姫様は、末永く幸せに暮らしましたとさ…終わり」

私が読む絵本の朗読を、目をキラキラさせながら聞いていた娘だったが、
「終わり…なの?王子様とお姫様の物語は、まだ終わってないよね?」
突然、ややこしいことを言い始めた。

「だって、二人の生活はこれから始まるんじゃん。いろんな困難を乗り越えて、やっとこれから幸せな暮らしが始まるんでしょ。そこは聞かせてくれないの?」
「いや、お話はこれで終わりなんだよ。この後は、幸せに暮らしましたって書いてあるし。だから、めでたし、めでたしってことで」
「めでたしって何?」
「めでたしは…んー、ネットで調べると、素晴らしいとか見事だって意味らしいよ」
「だから、その素晴らしい二人のその後を教えて欲しいのに。そんなドラマチックな冒険を終えた二人が、平凡な日々をどんな風に過ごしていくのか、興味あるんだけどな」
「お前…ホントに年長さん?」
「幼稚園で読み聞かせしてくれる絵本にも、腑に落ちないところがいっぱいあるんだよね。そんなわけないじゃんってゆーか」
「腑に落ちないって…どこでそんな言葉を?」
「もっとリアルなさ、人間としての暮らしを描いて欲しいの。魔女が悪巧みをしても、魔物と死闘を繰り広げても、最終的には人としての営みがあるわけでしょ。その辺を省かれちゃうと、ホントにただのおとぎ話で終わっちゃう気がするんだよね」
「ママー、この娘、どうかしたのかなー」
「本にはそこまでしか描いてないんなら、パパが創作して聞かせてよ。小説家志望だったんでしょ。あのアプリにも毎日作品投稿してるんでしょ」
「いや、ファンタジーは専門外で…」
「二人のその後のリアルな生活を描くんだから、ファンタジーじゃないじゃん。パパにも描けるじゃん」
「おいお前、そろそろ寝る時間じゃないかな」
「えー、その先を聞かないと、気になって眠れないよ」
「…分かった。じゃあ、話すからそのまま聞いて」

二人は、結婚して、夫婦になりました。
王子様は行政を任され、お姫様はそのサポートに回り…喧嘩をしたり、旅行をしたり、そしていつしか時は過ぎて、二人には可愛い赤ちゃんが生まれました。
「赤ちゃんの名前は?」
…黙って聞いて。名前なんかどーでもいいじゃん。
まあ、リサ、とでもしておく。
で、二人の生活は、子供中心になっていきます。
これは世の理だから仕方がない。
そしてそこから、家族三人のドタバタな日々が始まるのですが、それはまた、別のお話。

「えー、ちょっとちょっと」
「いや無理だって。ある家庭の単なる日常じゃん。そんなの、平凡過ぎて波乱万丈で、物語になんか出来ないよ」
「…どっちなの?」
「とにかく、二人の、いや三人のお話は終わらないんだよ。まだまだ終わらない物語なんだよ」
「そっか、そーだよね。終わらないよね。そーだと思った」
「…ん?納得した?」
「うん。このままじゃ、パパと私のこのお話が終わらない物語になって、作者さん困っちゃいそーだから」
「…ん?何の話?」
「まあ、いいじゃん。それより、生まれた赤ちゃん、私と同じ名前だったね」
「…ん?そこ?」
「王子様とお姫様は、我が家と同じような幸せな家庭を築くんだろうね。なんか、目に浮かぶようだわ」
「お前…ホントに年長さん?」
「4月からはピッカピカの一年生だよ!」

こうして、私はやっと娘から解放され、深い眠りにつくことが出来た。
ずいぶんと話が長くなったが、それは今回のお題のせいだろう。
私にはまったく責任がないが…終わらない物語なんて、この世にあっちゃいけないんだな。
終わりがあってこそ、すべてが良し、めでたしめでたしとなるわけだ。
我々家族にも、いつかそう思える日が来るのだろうか。

それにしても、ウチの娘、あんなんだったっけなー?

1/25/2025, 1:00:50 AM

やさしい嘘をつかれるより、残酷な真実を伝えて欲しい。
嘘は嘘のまま、きっとどこかで破綻する。
その時、君の優しさまでもが破綻して、欺かれたというその残酷な真実に戸惑うことになるだろう。
だから、いつだってリアルを伝えて欲しいんだ。
リアルな世界がどれほど美しいかということを、全身で感じていたいから。

今の本当の気持ちを言ってくれていいよ。
もう、終わりだと言うならそれでもいい。
僕は大丈夫。
たとえ一人ぼっちになっても、今までと変わらず生きてゆけるから。
変わらないよ、この病室で生き永らえる生活は。
むしろ、ひとつ重荷が減るのかもしれないね。
あっちの世界へは、何ひとつ持っていけないんだろうけど。

あなたが好きとかさ、やさしい嘘は欲しくないんだ。
それは、僕を未練でこの世界に縛り付けることになる。
そんな残酷な仕打ちを受けるより、真実を告げて僕の前からいなくなって欲しいんだ。
ホントだよ。いや、泣いてなんかいない。
君と離れることは悲しくなんかないんだ。
だけど…今までありがとう。
これだけは、伝えておきたかった。

え…僕の言葉全部がやさしい嘘?
そんなわけ…ごめん、今は涙があふれて何にも言えないや。
また明日、来て欲しい。
きっと明日は、本当の気持ちを伝えられると思う。
やさしい嘘なんか…今の僕達には必要ないって、気付かせてくれてありがとう。

1/24/2025, 3:05:29 AM

その瞳をとじて、君が一番輝いていたと思う時代を思い浮かべてくれないか。
何をやってもうまくいく、周りの誰もが自分を賞賛してくれる、そんな時代があったんじゃないかな。
だとしたら、それが君をこんな風にしてしまったのかもしれないね。
可哀想に。

いや、もういいんだよ。
終わったことは水に流す。
だけどね、一番気になるのは、君が今思い描いている時代に、僕はそこにいたのかなってこと。
君の傍らに。
…うん、覚えてないんだ。

君の快活な声や笑顔はうっすらと記憶にあるよ。
今よりも、もっと輝いていた。
あの頃、僕は君と一緒に、いや…もう一人いたよね。
あの娘、名前はなんていったっけな。
僕が付き合い始めたばかりの女性だよ。
名前は思い出せないけど、彼女の存在は思い出せた。
でも、今はもう、どこにもいない。

あの日、三人でドライブをしたよね。
君が運転して…僕と彼女は後部座席で。
僕達に気を使ってくれたんだと思ってた。
でも、気付いたら、車は崖下に真っ逆さまだ。
君は落ちる前に、車の外に飛び出したらしいね。
入院していた病院の先生に聞いたよ。
「お友達の一人は無事で良かったです。ただ、もう一人の女性のお友達は…残念ですが…」

あの日のことは思い出せたんだ。
ただ、それ以前のことが思い出せない。
君が一番輝いていた時代、僕はその傍らにいたのだろうか。
いたとしたら、僕は君に何をお願いしたんだろう。
当時、万能感あふれる君に、心から頼りきっていたんじゃないだろうか。
困った時は、君に相談して。

瞳をとじるとね、あの時のことが、うっすらと思い出せるんだ。
僕も必死になって、車のドアを開けようとしていたこと。
崖に落ちる前に。
後部座席にいたのにね。
とゆーことは、ああなることを分かっていたのかな。
あの頃、僕は君に…いや、大嫌いだったはずの君に、いったいどんな想いを打ち明けていたのだろう。

もう行くよ。
面会時間が終わるからね。
うん、君を責めるつもりはない。
むしろ、ありがとうと言うべきなのかもしれない。
あれはきっと、単なる事故だったんだと思う。
万能な君も、時にはミスを犯すってことだ。
ちょっと安心したよ。

…ああ、そういえば、警察の人から聞いたんだけど、君は彼女から、多額の借金をしていたそうだね。
僕はね、あの時、ドアが開かなくて、ホントに良かったと思ってるよ。

1/22/2025, 8:59:23 PM

あなたに渡したい、素敵な贈り物を見つけた。
あなたには、いつもお世話になっているから。
僕にしか手に入れることの出来ない、大切なあなたのへの贈り物。

夜が明けぬうちに、あなたへの贈り物を手に入れた。
包装したり、リボンをつけたり、メッセージを書いたりは出来ないから、出来るだけ綺麗な状態で渡したかった。
血を拭き取り、形を整えて、目覚める前のあなたの枕元へ。

一晩かけて僕が仕留めた獲物、あなたは気に入ってくれるかニャー?

1/21/2025, 9:46:39 PM

心に羅針盤を持て。
壊れていてもいい。
正しい道ではなくとも、進むべき道を示してくれれば、それでいい。
困難だらけの航海や、迷ってばかりの旅路でも、羅針盤を信じてその道を進むんだ。

そう、親父に言われて育ったけど、今になって振り返ってみると、俺の心には羅針盤なんて無かったな。
進むべき道すら教えてもらえなかった。
だから、いつだって自分の選択に自信が無かったよ。
それでも、人生は前に進むからさ、何とかここまで生きてきた。

思えば、あれは、守るべきものを持った人間の言葉なんだと思うよ。
その羅針盤を信じて、前に進むことを覚悟した人間の。
進むべき道とか言っても、それは「まっすぐ前を向いて目の前の道を進む」の一択だったんじゃないかな。
だって、正解なんて分からないんだから。
親父の言う通り、それは羅針盤も教えてくれない。

じゃあ、羅針盤なんていらないかっていうと、あったらさ、もっと楽しい毎日を送れるかもしれないなって。
うん、それが君なんだよ。
君となら、これからの人生を、より幸せな方角へ導けるんじゃないかと思うんだ。
そして、君がその道しるべになる。
俺はそう信じてる。

だから…俺と結婚してくれませんか?

Next