Ryu

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「そして、王子様とお姫様は、末永く幸せに暮らしましたとさ…終わり」

私が読む絵本の朗読を、目をキラキラさせながら聞いていた娘だったが、
「終わり…なの?王子様とお姫様の物語は、まだ終わってないよね?」
突然、ややこしいことを言い始めた。

「だって、二人の生活はこれから始まるんじゃん。いろんな困難を乗り越えて、やっとこれから幸せな暮らしが始まるんでしょ。そこは聞かせてくれないの?」
「いや、お話はこれで終わりなんだよ。この後は、幸せに暮らしましたって書いてあるし。だから、めでたし、めでたしってことで」
「めでたしって何?」
「めでたしは…んー、ネットで調べると、素晴らしいとか見事だって意味らしいよ」
「だから、その素晴らしい二人のその後を教えて欲しいのに。そんなドラマチックな冒険を終えた二人が、平凡な日々をどんな風に過ごしていくのか、興味あるんだけどな」
「お前…ホントに年長さん?」
「幼稚園で読み聞かせしてくれる絵本にも、腑に落ちないところがいっぱいあるんだよね。そんなわけないじゃんってゆーか」
「腑に落ちないって…どこでそんな言葉を?」
「もっとリアルなさ、人間としての暮らしを描いて欲しいの。魔女が悪巧みをしても、魔物と死闘を繰り広げても、最終的には人としての営みがあるわけでしょ。その辺を省かれちゃうと、ホントにただのおとぎ話で終わっちゃう気がするんだよね」
「ママー、この娘、どうかしたのかなー」
「本にはそこまでしか描いてないんなら、パパが創作して聞かせてよ。小説家志望だったんでしょ。あのアプリにも毎日作品投稿してるんでしょ」
「いや、ファンタジーは専門外で…」
「二人のその後のリアルな生活を描くんだから、ファンタジーじゃないじゃん。パパにも描けるじゃん」
「おいお前、そろそろ寝る時間じゃないかな」
「えー、その先を聞かないと、気になって眠れないよ」
「…分かった。じゃあ、話すからそのまま聞いて」

二人は、結婚して、夫婦になりました。
王子様は行政を任され、お姫様はそのサポートに回り…喧嘩をしたり、旅行をしたり、そしていつしか時は過ぎて、二人には可愛い赤ちゃんが生まれました。
「赤ちゃんの名前は?」
…黙って聞いて。名前なんかどーでもいいじゃん。
まあ、リサ、とでもしておく。
で、二人の生活は、子供中心になっていきます。
これは世の理だから仕方がない。
そしてそこから、家族三人のドタバタな日々が始まるのですが、それはまた、別のお話。

「えー、ちょっとちょっと」
「いや無理だって。ある家庭の単なる日常じゃん。そんなの、平凡過ぎて波乱万丈で、物語になんか出来ないよ」
「…どっちなの?」
「とにかく、二人の、いや三人のお話は終わらないんだよ。まだまだ終わらない物語なんだよ」
「そっか、そーだよね。終わらないよね。そーだと思った」
「…ん?納得した?」
「うん。このままじゃ、パパと私のこのお話が終わらない物語になって、作者さん困っちゃいそーだから」
「…ん?何の話?」
「まあ、いいじゃん。それより、生まれた赤ちゃん、私と同じ名前だったね」
「…ん?そこ?」
「王子様とお姫様は、我が家と同じような幸せな家庭を築くんだろうね。なんか、目に浮かぶようだわ」
「お前…ホントに年長さん?」
「4月からはピッカピカの一年生だよ!」

こうして、私はやっと娘から解放され、深い眠りにつくことが出来た。
ずいぶんと話が長くなったが、それは今回のお題のせいだろう。
私にはまったく責任がないが…終わらない物語なんて、この世にあっちゃいけないんだな。
終わりがあってこそ、すべてが良し、めでたしめでたしとなるわけだ。
我々家族にも、いつかそう思える日が来るのだろうか。

それにしても、ウチの娘、あんなんだったっけなー?

1/25/2025, 10:42:50 PM