その瞳をとじて、君が一番輝いていたと思う時代を思い浮かべてくれないか。
何をやってもうまくいく、周りの誰もが自分を賞賛してくれる、そんな時代があったんじゃないかな。
だとしたら、それが君をこんな風にしてしまったのかもしれないね。
可哀想に。
いや、もういいんだよ。
終わったことは水に流す。
だけどね、一番気になるのは、君が今思い描いている時代に、僕はそこにいたのかなってこと。
君の傍らに。
…うん、覚えてないんだ。
君の快活な声や笑顔はうっすらと記憶にあるよ。
今よりも、もっと輝いていた。
あの頃、僕は君と一緒に、いや…もう一人いたよね。
あの娘、名前はなんていったっけな。
僕が付き合い始めたばかりの女性だよ。
名前は思い出せないけど、彼女の存在は思い出せた。
でも、今はもう、どこにもいない。
あの日、三人でドライブをしたよね。
君が運転して…僕と彼女は後部座席で。
僕達に気を使ってくれたんだと思ってた。
でも、気付いたら、車は崖下に真っ逆さまだ。
君は落ちる前に、車の外に飛び出したらしいね。
入院していた病院の先生に聞いたよ。
「お友達の一人は無事で良かったです。ただ、もう一人の女性のお友達は…残念ですが…」
あの日のことは思い出せたんだ。
ただ、それ以前のことが思い出せない。
君が一番輝いていた時代、僕はその傍らにいたのだろうか。
いたとしたら、僕は君に何をお願いしたんだろう。
当時、万能感あふれる君に、心から頼りきっていたんじゃないだろうか。
困った時は、君に相談して。
瞳をとじるとね、あの時のことが、うっすらと思い出せるんだ。
僕も必死になって、車のドアを開けようとしていたこと。
崖に落ちる前に。
後部座席にいたのにね。
とゆーことは、ああなることを分かっていたのかな。
あの頃、僕は君に…いや、大嫌いだったはずの君に、いったいどんな想いを打ち明けていたのだろう。
もう行くよ。
面会時間が終わるからね。
うん、君を責めるつもりはない。
むしろ、ありがとうと言うべきなのかもしれない。
あれはきっと、単なる事故だったんだと思う。
万能な君も、時にはミスを犯すってことだ。
ちょっと安心したよ。
…ああ、そういえば、警察の人から聞いたんだけど、君は彼女から、多額の借金をしていたそうだね。
僕はね、あの時、ドアが開かなくて、ホントに良かったと思ってるよ。
1/24/2025, 3:05:29 AM