Ryu

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3/26/2024, 10:06:27 PM

何でも持ってる奴っているんだよね。
勉強が出来て、スポーツも得意で、イケメンで、優しくて。
同じ人間なのに、どうしてこうも違う?っていう…。
それが俺の兄貴。
俺とは真逆の存在。

比べられて嫌になる、って話を、最近仲良くなった奴にしたら、
「俺の兄貴なんか、札付きのワルで落ちこぼれ。周りからの評判は最悪だし、両親もとうにサジを投げてる。お前みたいに、自慢の兄貴がいるのが羨ましいけどな」
と、言われた。

なるほど、自慢の兄貴か。
確かに、自分の兄貴の悪評ばかり聞かされるのは、なかなかキツイことかもしれない。
兄弟の話は我がことのように聞こえたりする。
どーしよーもない兄貴を持った彼の不満も、推して知るべし、だ。

「だけどさ、そんなどーしよーもない兄貴だけど、俺には優しくてさ。ホントに困ってる時、自分のこと放り出して力になってくれた。俺にとっては、自慢の兄貴だったんだ」
彼は遠い目をして言う。
「去年の冬に、ヤバイ奴に絡まれた俺を救おうとして死んじまった。兄貴にもう一度会いたいよ」
…しばらく、何も言えなかった。

そこに、これまた最近仲良くなった友達がやって来て、
「え、何、何の話?兄貴の話?ああ、お前ら二人とも兄貴がいるんだ。いいなー、俺なんか姉貴だぜ。口も聞きやしない。兄貴欲しいなー、一緒にゲームしたいなー」
こんな能天気な弟を持った姉も、それはそれで羨ましい。

帰り道、家に帰ったら、久し振りに兄貴とゲームでもやってみよーかなー、でもあいつ、ゲームもやたら上手くて、結局いつも俺が負けてバカにされるんだよなー、やめとこうかなー、とかいろいろ考えて、自然に口元が綻んでゆくのを感じていた。

3/25/2024, 1:24:53 PM

「さっきからどこ見てんの?私の話、聞いてる?」
「…あ、うん、聞いてるよ。苦手なものの話でしょ」
「そう、私は犬が苦手なのに、公園とか歩いてると、必ず散歩中の犬が私の方に寄ってくるの。一緒にいる彼氏には見向きもせず」
「そーいえば、ウチの母親は大の蛇嫌いなのに、庭で蛇を見つけるのはいつも彼女だったわ」
「あれって何なの?嫌がらせ?」
「犬とか蛇にそんなつもりはないだろうけど、何か引き寄せるものがあるんじゃない?磁気的なものとか」
「磁気?なんかホントに引き寄せそうだね」
「…ちなみに、人間だったらどんな人が苦手なの?」
「苦手な人?そりゃやっぱり、いやらしいニタニタ笑いの禿げたおっさんとか…脂ぎってたら最悪」
「ああ…なるほど」
「なるほどってどーゆーこと?」
「やっぱり…苦手な存在を、磁気で引き寄せちゃうんだなって」
「えっ!ちょっと待って!まさか、ストーカーされてるとか?どこにいるの?」
「あのさ、犬以外に、苦手なものってある?」
「犬以外…そりゃ、幽霊とか大の苦手だけど」
「…だよね」
「え…?ちょっとまたどこ見てんの?なんで私の右肩ばっかり…」

3/25/2024, 1:20:22 AM

振り返れば、人生ところにより雨。
土砂降りや雷雨、暴風雨の日もあった。
だけど、雨を凌ぐ傘は持ってたし、時には雨宿りする軒下だってあった。
それは誰かが用意してくれたものだったり、自分で工夫して作り上げたものだったり。

軒下でじっと雨宿りしていると、次第に雨はやみ、どんよりとした雲の隙間から、太陽の光が差し込んでくる。
必ずその時は来る。
明けない夜はないし、上がらない雨はない。
たとえ六月の梅雨のように降り続いたとしても。

もしも傘が壊れてびしょ濡れになったとしても、その体さえもいつかは乾いて、やり直せる時が来る。
乾かすためのストーブや着替えだってある。
だから恐れずに、雨の中に飛び込んだっていい。
そしたら、雨に濡れて震えている子犬を助けられるかもしれない。

雨の日は、雨音に耳を澄ませたり、水たまりを跳んでみたり。
晴れた日には出来ない楽しみ方がある。
世界のどこかに咲いているスケルトンフラワーの透明な姿を見ることだって出来るかもしれない。
サンカヨウ、別名スケルトンフラワーの花言葉は、「幸せ」。
雨降って、地固まる。
ところにより降る雨はいつだって、恵みの雨となる可能性を秘めている。

3/24/2024, 3:53:52 AM

感情論ではなく、生物学的に特別な存在になり得るのは、誰にとっても母親なんじゃないかと思う。
世界に一人、この存在が無ければ自分はこの世に存在しない。
自分という存在を創造してくれた神とも言える。
…決して、マザコンではない。

父親だって頑張っちゃいるが、所詮協力者にしかなれない…という実感がある。
自分の中で創り出し育て、その痛みに苦しむのも母親一人で、それらに関しては父親は蚊帳の外だ。
まあ、俺がいなきゃこの子は生まれてこなかった、というくらいの自負はあるが。

感情論としては、母親と折り合いのつかない人もいるだろう。
自分の少年期にも覚えがある。
自分を創造してくれたとはいっても、一人の人間だ、反りが合わないのは仕方がない。
口うるさくて、とか、何もしてくれなくて、とか、人によっては生涯で一番言い争った相手にもなり得る。
逃げるように遠く離れて、もう二度と会わないと心に誓った人だっていると思う。

でも、自分にとっての特別な存在が母親であるように、母親にとっての特別な存在が自分であることは、心のどこかにいつも留めておきたい。
自分はそんな風に思われていない、と悲観する人や、そんな風に思われたくないと非難する人もいるかもしれないけど、そう思われてると信じることが大きな心の支えになることは確かなんじゃないかと。
母親ってそーゆー存在なんだと思う。

男に生まれて後悔してることを強いて挙げるとすれば、そーゆー存在になれないことか。
まあ、父親には父親の役割がある。
それを精一杯こなすことで、きっと子供達にとって特別な存在になれていることを…心から願う。

3/23/2024, 8:35:30 AM

汗水流して、誰かのために働くのバカみたい。
他人を気遣って、自分をすり減らすのバカみたい。
実験マウスみたいに毎日同じことの繰り返しで、
こんな人生に意味なんてあるのだろうか?
かつてはワクワクした出来事も、いつしか当たり前になって、その輝きを失ってゆく。
こんな世の中で、あくせく生きていることがバカみたい。

そんな愚痴をこぼしながら浴びるほど飲んで、帰り道で居眠り運転の車にはねられた。
警察や救急のお世話になり、何とか一命を取りとめ、長期の入院を余儀なくされる。
たくさんの人達に命を救われ、意識の無いうちにここまで運ばれて、道端に放り出されたまま息絶えずに済んだ。

病室のベッドの上でしか生きられない生活が始まる。
マウスどころか植物のように身動きが取れない。
そんな毎日が一週間も続くと、今までの繰り返しの毎日が愛おしく思えてきた。…ホント、バカみたい。
人生に意味なんて無くても、普通に生きてることに奇跡を感じた。

すべての身の回りの世話を他人にお願いして、生きてるんだか死んでるんだか分からない日々。
コロナの影響で面会もNGで、いることが当たり前だった家族に会いたくて仕方がなくなってくる。
次に会える日をワクワクして待とう。
今の自分には、それが大きな支えとなっている。

あの夜に愚痴ったことはすべて覆された。
だから俺は、バカみたいにあくせく生きることを選んだ。
良し悪しじゃなくて、それが人間らしい生き方なんだろう。

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