未知亜

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8/8/2025, 5:17:10 AM

出かけようと扉を開けた矢先に雨。
みるみる黒い雲が広がり、雷が轟いた。
今日に限って予報を見逃したのは、確かに僕の落ち度だけど。

君とはぐれて狂いだした心の羅針盤。
あれからなにをしても上手くいかないんだ。
いちばんの基準が根底から揺らいで、
ふらふらゆらゆら
まるで当てずっぽうの方角を示す。

真っ赤に染まったレーダーの画面を閉じ、僕は大きく息を吐く。
まっすぐに闇雲に、煙る空へ飛び出した。

『心の羅針盤』

8/7/2025, 4:54:26 AM

じゃあここで、と君が立ち止まる。
「あさってね」とか「また来週ね」とか、いつも手を振り合う場所で。
続く言葉が切り出せなくて。
次に会う時を決めてから別れていたんだと初めて気づいた。

風のやんだ駅前で上げかけた手を止めて、君がこちらを振り仰ぐ。
「またね」
ぎこちなく振られた指先は、あまりにも綺麗で。

縁が巡れば会えるといいねなんて、甘い意味では決してなく。
これきりにしようという合図だと、不思議なくらい分かったんだ。
どうしようもなく鈍すぎた僕にも。

『またね』

8/6/2025, 9:41:04 AM

愛する人の声を聞き、
愛する人の手に触れて、
愛する人の生きる世界で、
わずかな時をともに過ごした。

泡になりたいわけじゃない。
命を差し出したつもりもない。
好きな気持ちを消せなかっただけ。

静かな海にこぽりと浮かびあがる小さな泡に、足を患った美しい少女の面影を彼は思い出す。寄り添う妻の腰を、抱いた瞳で。

『泡になりたい』

8/5/2025, 8:30:25 AM

最初に声をかけてきたのはあなただった。
そこだけすっと光が差した。
綺麗な花が咲き乱れ、世界を春風が吹き抜けた。

過ごす時間が増えるほど、いつしか僕は自惚れていた。
自分があなたに選ばれたのだと。

酷いよずっと本音は隠して、
いまさら苦しかったなんて。

独り寝に耐えるベッドはまるで熱帯夜の再来。
夜更けになっても朝日が差しても、下がる気配のない温度に焼かれて。
終わらぬ夏の堂々巡りに、成す術もなく身を焦がす。



『ただいま、夏』

8/4/2025, 6:58:52 AM

ユラユラとのぼっては消えていく泡の向こうで、君は黙っている。
氷はもうほとんど溶けてしまった。

いつも君のすることが、僕のしたかったことだと思わせられる恋だった。

ソーダ水を注文する声に
同じものを
と重ねると、
真似しないでよ
と君は小さく笑った。

同じタイミングで運ばれた同じ分量の炭酸は、今日も君の方がずっと早く飲み終わってしまう。

窓の外を眺めたまま、君が黙っている。

『ぬるい炭酸と無口な君』

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