1年後
警告はされていたはずだ。
静かに人の動く姿を見るのが難しい焼けた大地、泥と漂流物の堆積し、異臭のする平野を見ながら呟く。
毎日、生活するのに精一杯だった。
けれど、楽しかった。たまにする外食での贅沢。ファミレスだったり、持ち帰り弁当のトッピング増しとか、コンビニスィーツ。一緒に美味しいねって言う明るい笑顔や、最後の一欠片を巡るジャンケン。
もう出来ない。
1人がいいと願ったあの日から今日で1年。
自分以外いない世界になった。
当たり前の世界は当たり前だからいいんだ。
誰かが文句言いながらも、道路を直したり、インフラ整備したり、作物作ったり、料理したり、洗濯したり、掃除したり、毎日、知らない誰かが働いていた。もう、誰もいない。それでいい!とあの日言ったのは自分。
簡単だった。
ボタンを押したら人工衛星が海に山に何個も落ちて、
エネルギー施設を破壊した。
もう誰もいない。知らない誰かも毎日の楽しみがあったんだよな。
望んだ世界が違うなんて贅沢だが、またループ出来るからいいか。もう、リセットボタンはないけど。
子供の頃は
自分は何故か特別な使命を受けて生まれてきたのだと妙な感覚があった。
家族との間も自分だけが違和感を感じていた。
よその家の事を知ったり、学校へいくようになるとその違和感は大きくなった。
まぁ、頭でっかちの世間知らずのコミュ障だっただけだと今は思う。そう、思う事が一番の落とし所だ。
亡くなった妹は友達がすぐ出来るタイプだった。
私にはそれは出来なかった。怖かったのかもしれない。
読書…本ばかり読んだ。分からない事は本を読んだ。
誰かに相談する事はいけない事のような気がした。
あまり裕福ではなかったが、食べるのは困らなかった。
でも、学費がかかるようになるとあまりいい顔はされなかった。高校は自分で奨学金申請をして、さも、親が書いたような顔で提出した。妹は中学を出てすぐ就職した。そうしたら、会社が合わなかったみたいだった。
精神科に通うようになり、休職した。
大学も奨学金を申請して後は受かるだけだったが、
ある日、浪人しても生活費はいれろと。予備校も塾もそんな雰囲気じゃなかった。
結局、国立一本だったがダメだった。進路指導の先生に就職するといって、探してもらって今の会社に潜りこめた。
それから、妹の病院や退職の話は何故か私が対応していた。弟は高校には行かず専門学校に行くとなったが、学費は私が工面した。
両親のこの頃の記憶があまりない。
結婚する時、費用は全て自分で用意して、参列する家族の衣装も買った。祖母が母に祝儀を預けたと言っていたが、私の元には来なかった。
もらっておいたからってその事だったのか。
会社で、母がいなくなったら生活ができないから困ると言っていたらしいとか余興のカラオケで別れの歌を散々歌い、自分の舞台にしていたと聞いた。自分の娘にする態度かと言われていたらしい。
どうしていい話しを思い出せないのかな。
きっと楽しかった事もあったはずなのに。きっと楽しかった後に何かあったんだな。誕生日に妹にだけ、ケーキを買ってきたのは父で弟だけ幼稚園にいれたのは母で
雛人形も鯉のぼりもなかった。
定年を迎える今になってもこんな事思うが、両親はきっと、人と上手く付き合えなくて知らない事が多かったのではないか?真面目だけど…子供らしい子供じゃなかったし、お姉ちゃんだから我慢しなきゃいけないと勝手に思ってたから、きっと扱いにくかったのかも。
子供の頃は と、いうか養われていた時も、そう言えば周りから浮いていたから、一緒か。まぁ、いいか。
子供いなくて良かった。同じ事になったらかわいそう。
好きな色
君が着ている淡いブルーのワンピース
君の髪をきれいに魅せる水色のリボン
君の耳元で揺れるアクアマリンのイヤリング
君の細い首にかかるブルートパーズ
水色が好きなの?
そう尋ねるといいえと首を振る。
あなたが水色が好きって言ったから
そう言ってから、真っ赤な顔をする
あなたが好きな色をたくさん身につけたら、ずっと私を見てくれると思って…ダメかしら?
違うよ。
君に好きって言いたかったのに水色が好きって言ってしまったんだ。
今は水色が一番好きだよ。君が好きだから。
真っ赤なリンゴも好きかな。
今、2人とも真っ赤なリンゴみたいだから。
相合傘
僕たちの国では雨は降らない。降る時は干上がった川の名残りが、昔の勢いをあっと言う間に取り戻してあっと言う間に巨大な蛇から龍のようになり辺り一面を攫っていく。後には眠っていた草花が芽吹き一瞬のオアシスを作り出して、高台で見ている僕たちを和ませてくれる。
だから、雨降りには相合傘なんかで歩けない。
その代わり、暑い陽射しを少しでも和らげる為に日傘をさして歩く。ここで肝心な事は目当ての彼女を素早く見つける事だ。
日傘には冷却機能が少しついている。
上手く彼女に大きな僕の日傘に入ってもらえたらしめたもんなのだ。
でも、なぜか顔が熱くて汗が出てきてしまう。
汗で嫌がれないかな。話しもグダグダなら最悪。違う傘に行ってしまうからだ。
一瞬の相合傘だけど近くで話しができるのは嬉しい。
内緒の話しも出来るから。
あっ!母ちゃんが日傘忘れて僕めがけて突進してきた。
仕方ない。荷物を持ってやって家まで保護してやるか。
まだ母ちゃん以外は僕の傘には入った事がないけど。
落下
落ちる!そう自覚した途端、身体がビクンと跳ねた。
記憶がはっきりしないが、電車の中だった。
ウトウトしていてなったようだ。
本当に落下した気分なのだが、ちゃんと現象の説明があるらしい。
『ジャーキング現象』というらしい。
疲れているらしい。
電車結構混んでいるのに恥ずかしい。何事もなかったような顔でスマホをいじる。
もうすぐ降りる駅だ。寝るなよ。自分。
終点からは嫌だな。高さがあるし、障害物多いし。
ハタと気がついた。終点だ。今日は折り返しはない。
諦めて電車を降りると仲間らしい数人と目が合い、互いに苦笑いをする。
そのうち、お先にというようにホームの端からダイブしていく。バサっと背中から羽が生えて滑空していく。
仕方ない。覚悟を決めて宙へ飛び出す。
荷物なくて良かった。
しかし、羽で通勤は渋滞するから電車使えっていうのは退化を求められているのだろか?ジャーキングの方が怖いのに。