朝日の温もり
涙が溢れた。
気候変動が激しい為、今までのような春夏秋冬は愛でる事は出来なくなり、どのくらいが過ぎたのだろうか。
今朝は放射冷却のせいでとても寒い。
それでも、珍しく雲もなく晴れた。
日が昇り沈む。こんな当たり前が続くと思っていたのは幼い時だ。
朝、早く起きて食事をして学校へ行けと毎朝のように言われ、学校へ行き、友達と他愛ない話しをして、帰宅して夕食に文句を言って叱られて、早く風呂に入って寝ろと、皆が寝た後も何かしらしていた両親。
暑い寒い言っているんじゃない!お天道様はいつもみているんだからね。悪さをして叱られる時はそう言って朝日の当たる時間に起こされて、説教された。
思い出すものなんだな。
少しずつ温かくなっていく。
年老いた両親が誇らしそうに座っているのがモニター越しに見えた。
惑星移住計画の推進のために乗り込んだ片道切符の飛行船はエンジンがかかり、身体に圧がかかり一気に天に昇る。モニター越しの両親は泣いていた。
移住先でも朝日は温かいだろうか。
お天道様は見てくれるだろうか。
朝日の温もりをくれるだろうか、二人を思い出す為に。
加速がかかると眠くなってきた。
到着までは冷凍睡眠だ。朝日が起こしてくるかな。
早く起きろと。
岐路
別れ道だ。
最短で目的地に着くか、遠回りで色々考えさせたりする事をさせるか。
盤上の駒を見ながら考える。
こんな事ばかりもう長い間やっている。
先は書かれていないため毎度悩む。
選択肢は山ほどある。
簡単なのはリセットする事だ。
そうすればありとあらゆる天変地異で世界は一新する。
それもなぁ、どうなんだろうか?
そもそもゴールはなんだっけ…次元上昇による覚醒…だったか。そうすれば、この盤もグレードが上がるんだよな。あれ?リセットしなくても天変地異があるぞ。
ん?何度か同じ事繰り返すと強制発動するってか。
あらら…始まってた。これは生き残る者に託すタイプか。リセットよりはマシか。
駒は最短でゴールを目指すように進めた。
最近、多いな。まぁ、リセットは生き残らないからな。
誰も。
最悪
私、あなた、彼、彼女、あの人、これ、我々、あなた方、彼ら、あいつら、あれらと、皆が違う価値観で、自己や対象に何かを思い何かを言い、行動する。
誰かには最善、でも誰かには…。
そのうちゼロかイチを求めて、バラバラなものを再構築をするのだろう。
すべてを知っている地球にとっての最善の結果。
誰にも言えない秘密
秘密の匂いがするね?
穏やかな笑みを浮かべているがその瞳は暗くて深い黒。
何かをずっと探しているらしく、時々、そう言って顔を覗き込む。
見られた方はドギマギする。
それはそうだ。端正な顔立ち、つまり美形だ。大抵の男女はボゥっとしてしまう。老若男女問わず。
例外は生まれたばかりの赤子。当然だ。秘密を自覚して生まれるなど通常はない。
今日もその顔と表情筋を駆使して魅力的な振舞いをして人の抱える秘密を探している。
皆、抱えている秘密は言ってしまえば悩みの類いが多いらしく、いつもガックリして公園のベンチに座る。
何度も繰り返して行くうちに学習する。
息をするように隠し事をする者は秘密ではなく、日常なのだ。感情が揺れる事がない。匂いが違う。
だから、その感情の揺れから生じる波動が違う。
足りないのだ。
最近、そんな奴らが増えた。
あぁ、寄り添って間違いを気づかせればいいのか。
芽生えていく後ろめたさ、怯え、恐怖。
ゾクゾクすることに気づき、それにのめり込む。
中途半端にしてはいけないので徹底する。
味わい尽くす頃、対象者は真人間か壊れてるかどちらかだった。思うようにはいかないようだ。
こんな観察されているなんて知らないだろうな。
まぁ、誰にも言えない秘密だ。言う必要がないが。
更生プログラム、まだクリアできないな。
狭い部屋
あれやこれや夢見て広い部屋にしたというのにおかしい。確かここには機能的テーブルを置いて幾何学模様のレースのテーブルカバーをかけて、丸いフォルムの椅子があったはず。
壁に収納があるから、本棚は中に入れて、ベッドは壁にくっつけた。なぜ、お気に入りのものの姿が見えないのだ?ミニマリストにはなれないが、それなりに断捨離した。キッチンは何も変わらず機能的だ。
ワンルームだろう!汚部屋にしてしまったのか?
待て待て。床にはゴミも落ちてないぞ。
ピンセットが目に入る。
首を傾げて部屋を覗き込むとハタと思い出す。
あっ?先程掃除する為に摘んで出していたらしい。万年せんべい布団の上にお気に入りテーブルと椅子があった。やれやれ。ピンセットでテーブルと椅子を戻す。
肩をグルと回して腕を横に伸ばすとヒンヤリとした壁に触れる。
あぁ、立って半畳寝て一畳、妄想だけは無限に広がる。