"君の目を見つめると"
私の入っている部活動は、個人戦が常だった
自分だけで戦い、自分だけの実力を身につけて
自分だけの評価を貰い続ける。
部室はいつも静かで、皆が一人一人自らの課題に向き合っている
例外なく、私もそうだった
一段落ついた時、私は顔を上げる。
先輩、後輩、同級生
皆が自分の世界に沈み込んでいる。
一人の先輩が目についた
いつも笑っていて、いるだけでその場を明るくしてくれる
そんな和やかで愛らしい先輩が、普段からは想像もできないほどの真剣な眼差しで、作品を作り上げている
見慣れているはずの先輩のそんな姿に、私はたじろいだ
そして同時に、この先輩について来てよかったなんて思う
置いていかれないように、追いかけられる人になるために
私は自らの作品に再び向き合った。
"星空の下で"
眠れない夜だった。
オレンジ色の光を眺めて、自らの呼吸と心音だけを聞く
すぅと意識を手放すように瞼を閉じて一度、二度と息をした
昨日はどうやっていたっけ、と思い出そうにも同じことをやっていた覚えしかない
もぞもぞと身体と布団を動かして暑くなったり寒くなったりを繰り返す
そんなことをしていると、ベッド横のカーテンが目についた
開いている。
僅かだが、中央のカーテンが開いてレースカーテンがこちらを覗いている
ひやりと何だか恐ろしいものを感じて、閉めるために起き上がった
片手でカーテンの裾を引っ張ると、レーンがカラカラと音を立てる。
そのまま背中をベッドに押し付けると、私を支えたスプリングがギシと鳴いた。
もし、開けて空を眺めていたら
どうなっただろう
もしかしたら、満点の星空が私を癒してくれるかもしれない
もしかしたら、真っ暗な空におおきな月がいたかもしれない
もしかしたら、誰かがいたのかもしれない。
ぼんやりとした頭の中で、“もしかしたら”を考えているうちに、私はようやく意識を手放した。
"それでいい"
雨の日のバス停
やっと辿り着いた屋根の下で傘についた雨粒をはたき落とす
手を僅かに濡らしながらくるくると傘を畳んだ
雨もまだまだ止みそうにない
小さな屋根に水が溜まって、大きな滴となって落ちてくる
水溜りに叩きつけて、私の足を濡らした
ひんやりとしたそれは私から体温を奪う
不愉快な感覚に身を捩って、安全な場所を求めて少し移動する
灰色の濃淡を携えた空を見上げる
それでも私は、雨が好き。
"幸せに"
「全人類の人間が人生最大の失敗を今すぐ経験して人に優しくなればいいのに」
ついさっきまで談笑していた友人が明後日の方向を見ながらそう呟く、何事だ
先程までの態度とは打って変わってぼんやりとしている
いきなりどうしたのかと問うてみれば、最近失敗続きなのを思い出してしまったらしい
失敗を経験すればその痛みを知っているから人に優しくなれる
同じ痛みを知ること、それは人と人とを巡り合わせる最大の感情になり得る。
裏も表も存在しない。
共感して、同情して、慰めることができる。
埋めることを諦めたパズルのピースがカチリと噛み合うように。
それはそれとして取り敢えず目の前のこいつは休ませようと思った。
"何気ないふり"
深く考え込む私を訝しんで
そろりとあなたは覗き込んでくる
そんな姿に酷い嫌悪が私を襲う
視界に入るだけで胃の中身が迫り上がり、無意識のうちに顔に力が籠る
敵意しかない眼差しを向けるわけにもいかず顔を伏せた。
そんな私に、大丈夫か心配だだのと頭の上から言葉を浴びせてくる
表面上だけの感情を、一体いつまで繰り返すのか
鋭い何かでその胸に突き刺すのを夢に見て
話しかけてくるそれに、私は慣れたように愛想の良い笑顔を顔面に貼り付けて返事をした。