"二人ぼっち"
そろそろ休憩しなよ
私の声は宙を舞う
君に届けたはずの言葉はそれきりで、君は机に顔を近づけて誰に届くでもない譫言を繰り返している
私は何も出来ず、ただ隣で君の青い顔を眺める日々が続いていた
どこから取ってきたのか大量の本をベッドしかないこの部屋に持ってきては、寝て起きて調べて落胆して寝て起きてを繰り返す
こんな生活をしていては体も心も壊れてしまう
ねえ、諦めて
ずっと思っていたことだった。
結果が出るかどうかもわからない努力を強いられる君を、どうにか救い出したかった
可哀想なほどに震える肩に手を伸ばして、慰めるふりをする
どうせ届かないと、わかっていたから
ぴたりと君は静止して、泣き出した
初めは小さな雫が机の紙の束に落ちるだけだった
けれど、すぐにダムが決壊したような涙がボタボタと君の頬に伝い始める
数日ぶりに君は弱音を吐いて、ベッドの上にある私の死体に縋り付いた。
"不条理"
なんか、上手くいかない
そう思い続ける人生を生きている
テストで学年1位を取ってきた兄を見た
平均点前後のテストを見る
友人に恵まれ、楽しそうに笑うクラスメイトを見た
教室で1人、両手で持った本を見る
楽しそうに、当然のように活躍しているバイト先の人を見た
失敗続きで役立たずの自分の姿を見る
努力が足りない
そんなことはわかりきっている
不幸ぶった自分が醜くてたまらない
また、夜が明けた
"泣かないよ"
天国からずっと、見守っているから
確かに君はそう言って、私の頬を撫でた
なんて馬鹿らしい
見守って欲しいんじゃない
そばにいて欲しかった
受け入れることも、手放すこともできない黒く染まった感情を抱えている
ドラマで聴くような薄っぺらい希望的観測
そんな言葉を投げかけられて、どう生きていけばいい
悶々として、静かな夜が続く
まるで呪いのようにかけられた言葉。
確かに心にまとわりついている
きっと、私が覚えている限りそれは
事実にしかなり得ないんだろう
君の真意と言葉の抑揚全てを頭の中に巡らせて
私は初めて、君を思い出して涙を流した。
"怖がり"
やけに静かな住宅街で鍵の閉まる音が響いた
そのままアパートの廊下を歩き出す。
それが思っていたよりもうるさくて数歩だけ大胆に歩いた所で立ち止まり、慎重に歩き出した
手すりの少し上に手をかざして、階段を降りる
築30年を超えたおんぼろアパートの階段
それを聞いただけでお察しだろう
最下段に足をつけた所で、近くの低木がガサリとゆらめいた
風など吹いてはいない。
どうにも目が離せずじっと見つめていれば、尻尾のちぎれた白い野良猫が這い出てきた。
それは金色の目をこちらに向け、綺麗な耳を外側へピンと立てて訝しんでいる
けれどもすぐに興味をなくしたようで、どこかへ走り去ってしまった
数秒の沈黙の後にハッとする
まだ目的地まで遠いというのに、先が思いやられてしまう
震えるため息を吐き出して、必死に足を動かした。
"星が溢れる"
いつもの平凡な1日だった。
朝起きて家を出ていつも通り過ごして家に帰って眠りにつく
ずっとそれを繰り返す生活。
別にそんな生活に飽き飽きしたりはしていなかった
友人とおしゃべりもするし、趣味もあれば特技もある
けれど、特別楽しみがあるわけではなかった
それでもいい、波乱万丈な日常よりもよっぽど生きやすい
目の前で止まった電車の扉
降りる人を待ってから乗り込んで扉の近くに立つ
左耳にワイヤレスイヤホンを突っ込んで、音楽を流しながらスマホをぽちぽちとタップしていた
趣味の延長線上
ネットで探していれば、唐突に私の心が射抜かれた
一目惚れとはこのことか!
今にも愛の告白をし出しそうな口を押さえつけ、チラチラとはためくまるでアニメのようなエフェクトが現れる
頭の上にハートが浮かんでいる気がする
最早目がハートになっていると思う
ぎゅっと目を瞑ってみたり、皿のようにした目で舐め回すように見た
現実の人だったら誘拐して丸ごと食べてたかもしれない
その前に視線で通報されて豚箱行きになるだろうが
いつも通りで平和な日常に突如として溢れた星を、私は愛することにした