"安らかな瞳"
朝起きてこれはおかしいとすぐに思った
息が苦しい
腫れ上がっていると感覚でわかるほどに喉が痛んでいる
頭が熱くてツキンツキンと痛み、対して首から下は冬用の布団を被っているというのに震える程に寒い
喉が渇いた
「くそ…」
1人しかいない暗い部屋で、掠れた声が響く
そんな声も籠って聞こえて、耳もおかしくなっていることに気付いた
なんとか布団から起き上がると、次第に関節が痛む
呼吸をするたびにヒューヒューという音が聞こえて、具合が悪いことを否が応でも自覚させられる
台所へ向かい、コップを手に取る
蛇口の下にかざしたその手は震えていて、今にも落としてしまいそうだった
水が音を立ててコップの中に落ちる
半分を満たしたところで水を止めた、それ以上入れては落としてしまいそうだったから
慌てて両手で包み込み、近くの椅子に腰を下ろす
水を一口嚥下すれば喉が痛み、腫れているせいか空気まで一緒に飲み込んでしまった
不愉快な感覚を飲み下し、ふぅと息をつく
ふと隣の窓ガラスが目に映る
涙で潤み、蕩け切った瞳を見つけて
恋をした時、人はきっとこういう瞳をするのだろう
と、思った
鼻も頬も赤くなり、髪は無造作に束ねられている
私は喉の不快感に咄嗟に咳をする
荒いやすりをかけられたような喉の痛みに悶える
その痛みから出た涙を拭い、残りの水を捨てて部屋に戻った
"ずっと隣で"
隣で笑っていてほしい。
なんて私の身には余るから
どうか、どうか
私の知らないところで笑ってて
"もっと知りたい"
好奇心というのは、どこまでも人を突き動かすし
人を人たらしめる心の部分でもある
それに拐かされて、私の前から姿を消した君を
私はたまに思い出す
元気にしていればそれで良い
私が君のそばからいなくなって、寧ろ喜んでいるのなら
私も嬉しい
君お得意の好奇心で、もし私に白羽の矢を立ててくれるなら
いずれまた、会いたい
"平穏な日常"
バスに揺られながら、淡い空の色を見つめる
膝の上に乗ったリュックをぎゅうと包み込むと得も言えぬ安堵感に包まれる。
首や耳などに飾りをつけて、1ヶ月ほど前からこの日を待ち侘びていた
ほんの休日の昼下がり、止まったり出発したりを繰り返す。
目的の場所に近づいてきたら、ドキドキしながらボタンの位置を確認する
バス停の名前が言われたところで手を伸ばせば、顔も知らぬ誰かに先を越される。
ボタンが赤く点灯し、無機質な音声がバスに響いた。
耳につけた飾りが揺れる
行き先を失った右手が宙を彷徨い、またぎゅうとリュックを握った
他の押した誰かが降りるのを待って、運転手に感謝を伝えてからバスを降りる。
走り出してしまいそうな、もしくはスキップでもしてしまいそうな足と気持ちを抑えて、私は歩き出した。
"愛と平和"
肌寒い、出来れば布団から出たくない朝だった
今日は朝から予定があるものの、少しでも布団の外の空気に触れると凍ってしまいそうなほど冷えている
凍りたくないので目が覚めても未だに布団にくるまっている
布団から出たくないとはいえ起きなければいけないのでなんとか寝ないようにはしていた
外から漏れ出る光はすっかり朝日に染まって美しい
ふと横で身じろぐ君を眺めて、もう少しだけと結局目を瞑ってしまった。暖かいそこは身も心も溶かしてくれる
予定は諦めることにした