『空に向かって』
ラジオ体操は、実に効率の良い有酸素運動だ。
今年に入ってから、毎日ラジオ体操を続けているおかげか、最近は体の痛みや怠さが和らぎ体調が良い。
ところで、ラジオ体操第一の始めの動き、「両手を上にあげて背伸びの運動」は深呼吸と間違えられやすいそうな。
私はいつも顔を上げ、両手をぐうっと出来るだけ上に伸ばしている。
空に向かって。
単純に、気持ちがいい。
よし今日もやるぞーって気になる。
『はじめまして』
新入学でも新入社でも、年度頭によくあるのが自己紹介。
あれが苦手で苦手で。
名前言うだけじゃダメなの?
趣味とか好きなものとか、そういうのは日常の会話の中でボチボチ話していけばよくない?
趣味は読書。
好きな作家は○○と○○と○○。よく読むジャンルはミステリ、SF、歴史、怪奇幻想ets. なんでも読みます。雑食です。
あと、散歩するのも好きです。
周りの景色を眺めながら、道端の花の写真を撮ったりしてポテポテ歩いてます。
スーパーに買い物に行くと、なぜかよく人に話しかけられます。見ず知らずのお年寄りや年配のマダムに「ねぇ、これとこれどっちがお得かしら?」なんて聞かれます。
「そうですね、私だったらこっちですかね」と返事して、そこから長話に発展することもあります。
でも、人見知りです。
みたいなことをつらつら喋る。
友人たちには「どこが人見知り?」「自己紹介スラスラ言うじゃん」なんて言われるけど、違うんだ。
緊張MAXで頭真っ白になって、何か言わなきゃとノープランでペラペラ喋りだすだけなんだ。
だから、第一印象はいいのに親しくなるとなんか違うって思われるタイプ。
そんなわけで、はじめましての方も、これまで私の投稿を読んでらした方も、よろしくお願いします。
『またね!』
小・中・高と、ずっと一緒だった友達がいた。
私も彼女も、このままずっと一緒にいるものだと思っていた。
けれど、進路を決めるにあたって、彼女の行きたいところと私の希望するところが違うことが判明した。
彼女は、第一志望を私に合わせて変えると言った。
私はそれを拒んだ。
彼女が私に合わせるのも、私が彼女に合わせるのもよくないと、そう言ったのだ。
それからの二人はどこかギクシャクしてしまい、卒業まで元に戻ることはなかった。
卒業式当日も、なにか声をかけたいのに何を言っていいのか分からなかった。
多分、彼女も同じだったのだろう。
式が終わり、みんなと別れの言葉を掛け合い、三々五々に散っていく。
このまま帰ったら、疎遠になってしまうかもしれない。
私は彼女を追いかけた。
駆け寄る足音に彼女が振り向く。
なにも言葉を用意していなかった私は、咄嗟に叫んだ。
「またね!」
目が合った。彼女の唇が動いた。
「うん、また」
それから長い年月が経った。
昔ほど濃密な関係ではないが、今でも数年に一度、会って互いの近況を報告し合っている。
『春風とともに』
花束はどれも美しいが、春の花で作る花束は優しく可憐な感じがする。
チューリップ、スイートピー、ガーベラ、トルコキキョウ、ラナンキュラス、フリージア、菜の花。
卒業、退職、送別会、謝恩会、入学と、春は一区切りがつく季節。
今日も花束を持った人を駅のホームで見かけた。
人から貰ったものなのか、人に渡すものなのか。
うっすらと微笑んで、左手に抱えていた。
誰かを想って作られた花束には、贈る人の気持ちが籠められている。
まだ肌寒いホームには、春風とともにやわらかい芳香も漂っていた。
『涙』
「あなたが、犯人ですね?」
確信を持って言われたその言葉に、私は返事をしなかった。
周囲の人達はみな一様に驚いた顔をしていたけれど、そんなにも私は無害に思われていたのだろうか。
何も出来ず、何も感じず、ただニコニコしているだけのお人形だとでも?
私が何も言わないことで間が持たないと思ったのか、彼は自分の推論を語り始めた。
曰く、現場には数滴の雫が落ちていた。不審に思った彼はそれを保存し解析に回した。するとそれからDNAが検出された、と。
涙は涙腺で作られる。涙腺内の毛細血管から血液を濾過して、血球を除いた液体成分が涙となるのだ。
でも、私は知っている。
涙でDNA鑑定はできない。
だからこそ、私はあの時零れ落ちた涙を拭わなかったのだ。
なぜ彼がこんな嘘をつくのかわからないけれど、他に証拠がないのなら私を逮捕することはできない。
殺人現場の涙など、なんの価値もないのだ。
私の胸の痛みなど、これまで誰も顧みなかったように。
その時、彼が痛ましそうな表情で私を見ているのに気がついた。
もしかしたら彼は、私が自首することを望んでいるのだろうか。
馬鹿な人。
私の涙を、彼だけが価値あるものだと思ってくれている。