イオリ

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10/18/2024, 11:37:21 PM

秋晴れ

先の三連休に、茨城県の大洗へ行ってきた。

高速を降りて海へ向かう道のり、右を見ても左を見ても、びっしりとサツマイモ畑が広がっていた。

収穫機と無数のカゴが畑に登場。根っこでつながったサツマイモが、次々と青空に顔を出す。

作業する人たちは笑顔だった。きっといい出来だったのだろう。うらやましい。


窓を開けて車を走らせた。空気がカラッとして気持ちいい。

潮風が吹き込むと湿気が飛ぶ。そうなると害虫が少ないらしい。農薬も少なくなる。サツマイモも自然の味わいだ。うらやましい。

大洗神社の神秘的な鳥居を見てから帰路へつく。3時過ぎだが、まだまだ暖かい。この地区は日照時間が長いらしい。農作物作りには最適な気候だ。海も近いし。うらやましい。


次の日。負けじと我が家のサツマイモも採ってみた。本当はもう少し置きたかったが、モグラにかじられてはたまらん、ということでスコップを手に畑へ。いざ、掘り出してみると……。

ふむ。まずまずではないかな。数も大きさも去年よりいい気がする。モグラの先手を取れたのもホッとした。

味は……。どうだろ。何とも言えん。サツマイモは置いておいたほうが甘みが増す。長期保存できるところがサツマイモのいいところだ。これだけあれば、冬に天ぷらで食べる分は十分ある。スイートポテトも作れるな。

腰が痛くなったけど、秋晴れの収穫は心地よい。来年は、もう1列作ってみようかな。干し芋用に紅はるかで。


10/17/2024, 10:21:02 PM

忘れたくても忘れられない

大学からの帰り。駅を降りてすぐ隣の駅で夕食の弁当を買って家まで歩く。なかなか大きな住宅街で、駅からは、赤の地面の広くて立派な遊歩道が付されていた。

夕方、同じように帰宅中の人が何人もいた。スーツのおじさん、小学生、スーパーの袋を下げたおばさん、女子高生は携帯電話をいじりながら歩いていた。

僕も歩いた。その日は朝が早かったから疲れもあって、早くベッドに横になりたかった。

ただ、歩いた。視線を下げて、赤い地面を見ながら。

ふと、顔を上げた。前を歩く人たち。彼らもただひたすら歩いていた。誰一人、こちらに向きを変えることもなく、振り返ることすらなく、前だけを見て歩いていた。

こいつら、まるで蟻の行列だな。そう思った。

だが、すぐにハッとした。慌てて後ろを振り返った。あとには、同じように歩く人たちがたくさん続いていた。

なんだよ、俺もただの蟻だったのかよ。

自分はあんなふうにはならない。そう思って生きていたけど、いつの間にか同じになっていた。

もしあの時、後ろを振り返っていなかったら、勘違いの傲慢さを抱えながら、今も生きていたかもしれない。

己の恥を思い返すあの遊歩道。忘れたくても忘れられない光景です。

10/16/2024, 10:54:43 PM

やわらかな光

美大に通う彼女が、林檎の絵を描いてXにポストしていた。

どう?

うん。林檎だね。

それだけ?

ええっと……。 どうしようか。迷ったけど、僕は彼女に隠し事ができない男なのだ。

影、かな。

影?影がどうしたの。

影がくっきりしているから 瑞々しくていい林檎に見える。特級品の林檎って感じ。店頭に並んでいたら、皆、手に取るんじゃないかな。

いいじゃん。ダメ?

ううんと……。じゃあ同じ林檎で影をぼやかして描いてみて。

2時間後。影のぼやけた林檎がポストされた。

どう?

うん。いい。僕はこっちがいい。

そう。理由は?

くっきりしている影は、強い光が当たっている証拠。ぼやけた影はやわらかな光。林檎にわざわざ強い光を当てるなんて、作為的なものを感じて嫌だ。そんな状況ある?不自然だよ。2枚目の方が温かみがあってホッとする。自然光。陽の光って感じで。

ふむ。じゃあお店だったら2枚目の方を手に取るの?

1枚目。

なにそれ。

食べるから。美味しそうなのは1枚目。

ううん、なんか納得いかない。

だからさ、実際に食べるとか美味しそうとかいうのと、君が何をどう描くのかってのは全くの別問題ってことさ。林檎を良く見せたいなら1枚目でもいい。僕には不自然でありきたりな林檎に見えるけどね。2枚目の方が自然で個性的に見える。絵としてはこっちが好きだな。

そっか。……なんかくやしい。負けた気がする。

まあ気にしないで。所詮、美術は3しか取ったことない男の話だから。

うう、 ますます負けた気がする。すごくする。



10/15/2024, 11:13:57 PM

鋭い眼差し

うつ伏せで横たわっている僕を見ていた。

ん?僕を見ている?僕が?

だから夢の中なんだとすぐわかった。

横たわった僕も、こちらを見ている。

鋭い眼差し。開いているのは左目だけだが、その光は寸分もブレること無く灯っていた。静かに、しなやかに。そして強く。

それを見ている僕はおそらく右目だ。顔は、体はあるのだろうか。そんなことを考えていると、浮遊感を感じた。そばの水たまりに映った自分を見ると、カラスがくちばしで目玉を挟んでいる。

飲み込まれる。そう思った瞬間、横たわった僕に視線をやった。右目が飲まれようとしているにも関わらず、左目は動揺もなく、鋭い光のままだった。



おはよう。

おはよう。

早く支度しないと遅刻するわよ。ご飯、できてるから。

ああ。 彼女に促されて起き上がる。放尿したあと、洗面所で顔を洗った。鏡でそっと自分の顔を見る。

穏やかな顔だった。僕はこんな、穏やかな目をしているのか。

なんと、なんともまあ、腑抜けた視線をしていることか。

あの目は、あの左目は、こんなに甘ったるい目じゃなかった。いつの間に僕は、剛毅さを捨ててしまっていたんだろうか。昔はもっと苛烈な気質だったはずだ。

もう一度顔を洗ってから鏡を見た。映る男をできる限りの力で睨んだ。

まだだ、こんなんじゃまだ足りない。本来の俺はもっと激しさが溢れているはず。

昨日に満足するな。愛想笑いなんかに逃げず、今日の全てを睨み返せ。

心の中で鏡の男に言った。

10/14/2024, 10:30:16 PM

高く高く

少しウエストが太くなった猫を連れて、食後の散歩に出た。

畑の前に行くと、なにやら騒がしい。 カエルの一団がやけに騒いでいる。


なんだって?

にゃあ。(どっちが高く跳べるかで勝負してる)

どっちって?

にゃあ。(みどりと茶色)

集団の輪の中で、二匹が睨み合っている。

にゃあ。(判定の仕方がわかんないみたいだ)

やれやれ。しょうがないな。

僕は物置から脚立を持ってきて、広げて置いた。

何段目の踏み板まで跳べるか。これならわかりやすいだろ。

にゃにゃ。 猫がカエル達に説明すると、2匹とも頷いて了承した。

先手 みどり。鋭い視線で脚立を見上げ、3回ほど喉を膨らませたあとジャンプした。太ももの筋肉がしなり、腱が美しく伸びた。タッタッと見事な着地。

記録 2段目。

後手 茶色。ふてぶてしくスタート地点に寄る。周囲は皆みどり色だが、そんなことは一切気にもしない。泰然自若。観客の歓声も待たずにサッと跳んだ。ダッと音を立てて着地。

記録 地面。

歓声が止んだ……。えっ?な、なに?今の?どういうこと?

しばらくして。沈黙を破ったのは茶色だった。

ケ、ケロケロ、ケロケロ、ケロケロケロケロ。

なんだって?

にゃあ。(さっきまで土の中で寝てた。寝起きだから本調子じゃない。ホントはもっと高く跳べる、だってさ)

観客がいっせいに騒ぎ出す。

ああ、うるさい、うるさい。じゃあ脚立、向こうに置いておくから、気が済むまでやってくれ。

僕は畑の端っこ、家からできるだけ離れたところへ脚立を運んだ。カエルの一行があとに続いた。

じゃあな。 脚立をセットして、僕は家へ向かった。

にゃあ。(おいらなら、脚立の天辺まで跳べるぞ)

嘘つけ。いつの話だよ。ちゃんと運動しろ。最近ちょっと太り過ぎだぞ。

にゃ。(お前もな)

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