イオリ

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10/14/2024, 12:42:09 AM

子どものように

友人が飲みに誘ってくれた。励ましにと。

もっと良い人に会えるって。

うん……。

ほらほら、今日は奢るから。いっぱい呑みなさい。

ありがとう。

次の日の朝。案の定、二日酔い。気分は最悪だった。が、頭の方は妙に冴えていた。

君とは合わない。実は最初の方から思ってた。

彼の言葉が頭のなかで何度もリピートする。最初から、なんて言われたら、私の何が悪かったのかわからない。

子どものように泣けたらいいのに。そしたら今よりはスッキリしたかもしれない。

でも泣けなかった。大人になって強くなったせいだ。つらいけど、今日も明日も立てる。成長の証。

でもそれはそれでつらいものがある。恋愛への情熱が薄れていく気がして。

あ~あ。生きるって大変だなあ。

10/12/2024, 12:11:45 PM

放課後

入学して間もない4月のある放課後。

そこまで話したことがないクラスメイトと、初めて同じ掃除当番になった。並んでモップ掛けをしているうちに、意外とスラスラと会話が進んだ。

部活入ってるんだっけ?

ああ、陸上部。そっちは?

数学研究会。

そんなのあるの?

さあ。先生に部活には入らないと伝えたら、そうなってた。うちの学校は、全員部活に入るってことになってるから、帰宅部だと困るんだろ。学校としては。

ああ、そういうことか。んで、実際はなんかやってるの?放課後。

特別教室で勉強してる。東大に行くつもりなんだ。

マジで?すごいね。数学も勉強してる?

もちろん。

じゃあ、数学研究会で合ってるじゃん。


──という話をした。1年生の時だ。

学年が変わってからは別のクラスになり、挨拶程度に話すぐらいだった。

その後、彼は本当に東大に入った。

高校最後の登校日、彼が僕に会いに来た。

東大、行くよ。

そうか、すごいな。よかったな、数学研究会。 と、僕が言うと、

覚えてたのか。と嬉しそうに彼は言った。

東大志望って言ったの、お前に言ったのが初めてだったんだよ。なんであの時そんなこと言ったのか、自分でもわかんないんだけどさ。それにしてもよく覚えてたな。

そうだよな。よく覚えてたよな。


そこから少し話して別れた。それからは会ったことはない。


友人という程ではなかった。それなのに何故か、あの時の会話はとても印象に残っている。この不思議な感覚は、理屈なんて気にしなかった、青春時代だったからこそのものなのかもしれない。

10/11/2024, 12:11:33 PM

カーテン

好きな配信者が入院してしまった。救急車で運ばれたらしい。

配信をしばらく休みます、とのこと。天井と点滴、仕切りのカーテンだけの写真がUPされていた。

とりあえず無事だそうなのでひと安心ではあるが、突然だったのでとてもびっくりしている。

写真の中のカーテン。半分以上のスペースで写っている。病院のカーテンって、不安にならないように、柔らかな雰囲気の色のはずなんだけど、一緒に写る点滴のせいか、妙な緊張感がある。

笑われるかもしれないが、僕はネットにコメントしたことがなかった。Xもそうだし、その配信者の動画のチャットにも、コメントしたことはなかった。

でもその日に、初めてコメントを書いて送ってみた。たぶん、あのカーテンのプレッシャーがそうさせたんだと思っている。内容は大したことはない。

“いつも動画見てます。お大事に。 ”

次の日、青空の写真がUPされていた。少し回復した、とのコメントも載せられていたので、ホッとしている。

焦らずに治療して欲しい。2024/10/11




10/11/2024, 1:18:24 AM

涙の理由

偶然会って数年前の話になった。数年前に受けた映画のオーディションの話。

なぜ君を選んだと思う? 監督が言った。

1番、上手かったから、ですか。

いや、1番じゃなかったよ。

ならなぜ?

泣き、さ。それだけは他より良かった。

それはどうも。それだけ、っていうのが気になるけど。

君は理由も無く泣ける。そこがいい。

ありがとうございます、でいいのかしら。

いいに決まってる。女優だからな。でも。

でも?

それが人としていいことなのかどうかは知らない。完全に、芸術とプライベートを分けられるならいいんだろうが……。そんな器用なこと、俺にはできないからな。

私は大丈夫。できます。

ほう、言い切るね。

だって女優ですから。

監督は笑った。

そうだった。本物の女優は人じゃない。化け物だったな。


10/10/2024, 2:40:50 AM

ココロオドル

衆議院解散。選挙戦突入。

二十歳になって投票権がもらえた。今は18歳か。


投票所入場券を持って市役所へ。初めての投票だったので、入場券が折れたり汚れたりしないように、ものすごく気を使って持って行ったことを覚えている。

期日前投票だったので比較的空いていた。ただその分、選挙管理委員会の人たちの視線を熱く感じてしまった。悪いことしてないのにちょっとだけ手が震えた。

ここでいいですか、と係の人に聞いて箱に紙を入れた。

部屋を出て長い通路を歩く。

ついに……。ついに、投票してしまった。浅薄でいい加減で三日坊主で面倒くさがりの矮小な僕が、日本の未来に莫大な、甚大な、多大な、絶大な影響を与える一票を投じてしまった。数日後には、ガラッと日本が変わる。

心躍らせながら市役所をあとにした。

結果はというと、僕が投じた候補者が当選した。

ええっと……。

結果はというと、そこまで日本、変わってないです。時代の流れに伴う変化(科学技術の進歩など)ぐらいはあったけど、あの時心が躍ったほどではないですね。僕の一票、絶大じゃなかったみたいです。

じゃあ投票しなくてもいいじゃん、って言う人がいることもわかります。でも、今回の選挙も僕は投票に行きます。

なぜかと言うと、いつか、偶然、国会議員の先生方に会った時、あんたらのこういうところがダメなんだ、と大声で言ってやろうと思っているからです。

でもその最中、あ、自分、投票してない、って思い出したら、叱ってる言葉に、まったくエネルギーが入っていかない気がするんです。そういうの、なんとなくマヌケな感じがしますよね。

だから別に、100%良い人として投票にいく訳では無いです。私怨を晴らす、まではいかないけど、少しぐらいは感情論で文句言ってやりたいなと、そんな不純な動機も含んでいます。

ともあれ。

今回は多数側の陣立てにも、裏があると噂のたった者が幾人も並ぶご様子。攻めようによっては、少数側の勝利、とまではいかなくとも、それなりに戦果をあげられるのではなかろうか。

どんな結果になろうとも、軍配はいつも市民に上がってほしいものだ。


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