放課後
入学して間もない4月のある放課後。
そこまで話したことがないクラスメイトと、初めて同じ掃除当番になった。並んでモップ掛けをしているうちに、意外とスラスラと会話が進んだ。
部活入ってるんだっけ?
ああ、陸上部。そっちは?
数学研究会。
そんなのあるの?
さあ。先生に部活には入らないと伝えたら、そうなってた。うちの学校は、全員部活に入るってことになってるから、帰宅部だと困るんだろ。学校としては。
ああ、そういうことか。んで、実際はなんかやってるの?放課後。
特別教室で勉強してる。東大に行くつもりなんだ。
マジで?すごいね。数学も勉強してる?
もちろん。
じゃあ、数学研究会で合ってるじゃん。
──という話をした。1年生の時だ。
学年が変わってからは別のクラスになり、挨拶程度に話すぐらいだった。
その後、彼は本当に東大に入った。
高校最後の登校日、彼が僕に会いに来た。
東大、行くよ。
そうか、すごいな。よかったな、数学研究会。 と、僕が言うと、
覚えてたのか。と嬉しそうに彼は言った。
東大志望って言ったの、お前に言ったのが初めてだったんだよ。なんであの時そんなこと言ったのか、自分でもわかんないんだけどさ。それにしてもよく覚えてたな。
そうだよな。よく覚えてたよな。
そこから少し話して別れた。それからは会ったことはない。
友人という程ではなかった。それなのに何故か、あの時の会話はとても印象に残っている。この不思議な感覚は、理屈なんて気にしなかった、青春時代だったからこそのものなのかもしれない。
10/12/2024, 12:11:45 PM