鋭い眼差し
うつ伏せで横たわっている僕を見ていた。
ん?僕を見ている?僕が?
だから夢の中なんだとすぐわかった。
横たわった僕も、こちらを見ている。
鋭い眼差し。開いているのは左目だけだが、その光は寸分もブレること無く灯っていた。静かに、しなやかに。そして強く。
それを見ている僕はおそらく右目だ。顔は、体はあるのだろうか。そんなことを考えていると、浮遊感を感じた。そばの水たまりに映った自分を見ると、カラスがくちばしで目玉を挟んでいる。
飲み込まれる。そう思った瞬間、横たわった僕に視線をやった。右目が飲まれようとしているにも関わらず、左目は動揺もなく、鋭い光のままだった。
おはよう。
おはよう。
早く支度しないと遅刻するわよ。ご飯、できてるから。
ああ。 彼女に促されて起き上がる。放尿したあと、洗面所で顔を洗った。鏡でそっと自分の顔を見る。
穏やかな顔だった。僕はこんな、穏やかな目をしているのか。
なんと、なんともまあ、腑抜けた視線をしていることか。
あの目は、あの左目は、こんなに甘ったるい目じゃなかった。いつの間に僕は、剛毅さを捨ててしまっていたんだろうか。昔はもっと苛烈な気質だったはずだ。
もう一度顔を洗ってから鏡を見た。映る男をできる限りの力で睨んだ。
まだだ、こんなんじゃまだ足りない。本来の俺はもっと激しさが溢れているはず。
昨日に満足するな。愛想笑いなんかに逃げず、今日の全てを睨み返せ。
心の中で鏡の男に言った。
10/15/2024, 11:13:57 PM