イオリ

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8/25/2024, 12:04:59 AM

やるせない気持ち

きれいな絵ね。 部屋の絵を見て彼女が言った。

そう?

うん。とってもきれい。

PCで作ったんだ。

そうなの?すごい。わたし、こういうの好きかも。


翌週。

料理をする間、音楽をかけた。

これ、初めて聞いた。すごくいい曲ね。

そう?

うん。なんて曲?誰の?

作った。PCで。

そうなの?すごい。あとでわたしにもくれる?


翌週。

彼女の家に行く途中で、花を買った。

ありがとう。すごくきれい。

そう?

うん。色も好きだし。香りもいいし。すごく嬉しい。


さて、どうしよう。

絵も曲もAIが作ってくれた。花の色もAIが選んでくれた。彼女はとても喜んでくれたからいいのだろうけど……。

なんだかなぁ~。

僕よりもAIの方が彼女の好みを知っている。

なんとなく、悔しい……。



8/23/2024, 11:45:05 AM

海へ

スマホで撮影した。

教科書、ピーマン、父親、クラスの無駄にうるさいヤツ、口だけは御立派な部活の先輩。

金曜の夕方、台風が来る前にと思って急いでバイクに乗った。

1時間半走らせた。海へ。

日が沈む前に着いた。ちらほらと人の姿もある。

良かった。海面は金色。きらきら。この世には美しさがあるって確認できた。

ずっと見ていたかったが、間もなく日は沈む。その前に。

波がヒザ下まで来るところまで進んだ。

ポケットからスマホを取り出し、夕日に向かって投げた。

一瞬の、僕にしか聞こえない小さな着水音。

もうどこへ行ったのかもわからない。台風がくれば、もっと沖の方まで、遠くへ遠くへ、あいつらを運んでくれるだろう。

大丈夫さ、僕は。大丈夫。

濡れた足のままバイクに乗り、明日を生きるために自宅に向かった。

8/22/2024, 9:55:04 PM

裏返し

 封筒が届いた。死んだ友人から。詩人の友人から。

 封を切りなかみを出す。2枚の紙。

 1枚目。僕に対する感謝の詩が並んでいた。抒情詩、というより叙事詩。まるで僕を英雄のように詠んでいる。もちろん彼なりのユーモア。死んだあとでも、僕の心を躍らせる。

 2枚目。

 愛の支柱 樫と思えど実はポプラ

 ひ弱な力で屋根も傾く

 すきま風がロマンスを枯らす

 涙が明日を隠す

 テーブルの上 レプリカのりんごひとつ


 おいおい。僕は紙を裏返して机に置いた。

 来週、彼を偲ぶ会に出る。どういう顔で、彼の妻に会えばいいのか。

 1枚目で持ち上げ、2枚目で困らせる。きっと僕があたふたしてるのを、空から眺めて楽しんでいることだろう。まったく、彼にはいつもからかわれてばかりだ。

 

8/21/2024, 12:06:28 PM

鳥のように

 冬になると、時々遠回りをして車を走らせる。数年前にできた大きな橋を走るため。

 橋の下には、冷たい川。その一角に白の集団。白鳥だ。シベリアから餌を求めて南下してくる。

 別に、何か芸をするわけではない。ただ居るだけ。でも遠くからその姿をみるだけで、冬の風がゆったりしたように感じる。毎年の大事なお客さんだ。

 運が良いと橋を走っているときに、飛んでいるのを見ることができる。リーダーを先頭に、見事なV字編隊だ。一羽の美しさだけでなく、チームワークの美しさも見られる。素晴らしい。

 もっと運が良いと、ちょうどこちらの車の上を通過する時がある。15〜20メートルぐらいだろうか、こんなに近くを?と驚くぐらい間近で見られる時がある。

 そしてその時思ったのは、お腹、結構汚れてるなあ、ということだ。

 そりゃそうだ。水に潜り、足で泥をまさぐり餌を探す。彼らは生きるために来たのだ。あのお腹の泥は、生きている証だ。そう思うと、あの汚れさえも美しく感じる。

 
 もっともがこう。ジタバタして泥をほじくり返して。でも顔だけはいつも笑顔で。

 あの鳥たちのように。

 

8/20/2024, 12:44:55 PM

サヨナラを言う前に

 じゃあ、そういうことで。

 あ、うん。

 サヨナラ。  彼女は、微塵も余韻を残さず去っていった。


 帰ろう。ヘルメットを被って自転車に乗った。

 坂道がいつもより疲れたけど、なんとか家に着いた。

 おう、おかえり。 7つ年上の姉が、ソファにあぐらをかいてアイスを食べていた。

 うん。 

 ん?どした?なんかあった?

 僕は無言で下を向いた。自然と涙が溢れてくる。床に落ちないよう、仕方なく上を向いた。

 それから、振られたことを教えた。

 ったく、あの女、可愛い弟を泣かせやがって。一発やってやろうか。

 いや、いいから。大丈夫だから。

 そうか。しょうがないな。まあ初恋はそういうものだから。

 うん。

 それで?振られる前に男らしくガツンと一言、言ってやったのか。

 うん。

 なんて?

 ……付き合おうって言ってきたのはそっちだろ、とか、たまに歯に海苔がくっついてるぞ、とか、たまに服が生乾きで臭うぞ、とか。実はそんなに好きじゃなかった、とか。

 言ったのか?

 うん。

 本当に?

 うん。

 本当にか?

 ……本当は、言ってない。我慢した。

 よし。 姉は僕を抱きしめ、荒々しく頭を
撫でた。

 えらい。よく我慢した。それを言っちゃあ男がすたるからな。

 うん、うん、と姉の胸で泣きながら、声にならない声で言った。

 よし、よし、もうちょっとだけ、泣いていいぞ。そしたらな、着替えてこい。ラーメン食べに行こう。大盛りな。残すなよ。

 うん。

 少しして、顔を洗って着替えた。姉はすでに準備を終えて、カスタムしたハーレーダビッドソンに跨っている。

 僕はヘルメットを被って後ろに乗った。

 ちゃんとつかまっとけよ。

 うん。あのさ。

 ん?

 姉ちゃんは何食べるの?

 味噌チャーシュー。特盛りな。あと餃子とチャーハン。  
 
 
 マフラーが爆音を上げる。それとは対照的にゆっくりと丁寧に動き出す。姉ちゃんは僕とのタンデムのとき、走り出しがいつも優しい。
 

 

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