すっかり日が昇りきった時間に目を覚ました。独り身の人間は、今首をくくったって誰にも気付かれやしない。存在価値なんてものは他者によって形成されるため、一人の時間は社会から自分を失わせる。自由は好きになれない。
外へ這い出て街を歩いていく。本屋に入り、気恥ずかしいタイトルの本を開く。拙い感想をノートに綴る。少しだけ、自分の形を取り戻す。自由の時間は、嫌いになれない。
蛆でも沸きそうな部屋で、牛乳パックの中身を口に含んだ。君は今頃、落ち着いて珈琲でも飲んでいる頃だろう。喉を鳴らして飲み込む。君の好きなキャラクターのキーホルダーが視界に入る。目を逸らさず、じっと見つめる。同じ時間を共にした、言葉を重ねた、思考を交わした、その事実だけは不変である。どんなに離れていようと、君との間には一対一の対峙があって、その間に誰も割り込むことはできない。
都合の良い考えを浮かべながら、今日も残像を抱きしめて暮らしていく。
大人になって別れには随分慣れた。巡り逢いと諦めはセットで、車窓から眺める景色のよう。口惜しさも数秒後には消散し、また取るに足らない巡り逢いを繰り返す。窓を割き、血みどろのまま手繰り寄せた君との再会だけを、まだ期待して。
歳を取る度、増えた鎖に安心して目を閉じる。どこへだって行けなくて良かった。ガムテープの隙間から呼吸をする日々は随分と気楽だった。押し込めたものが漏れ出ないよう閉じた薄膜だけが気がかりだった。
いずれこうなることは分かっていた。潰れて溢れたそれは日常を侵食し、鎖も薄膜も流して自由だけを残した。これから、どこへ行こうか。
君が足掻いて作り出した、煌びやかなテンプレートの居室。その隅に落ちた食べかすを、ゴミ袋に隠されたパッケージを、涙の滲みる枕カバーをずっと見つめていた。
「大きな愛」なんて軽薄な言葉で普遍化されてしまう前に、小さな暮らしに潜む茶目っ気を、自分だけは抱きしめていたかった。