題名『白昼夢』
冬の寒さに身震いする、午後の昼下がり。
自分はデスクワークの仕事を終わらせるためにキーボードに指を走らせていた。
と言っても、多すぎる仕事書類たちを見てため息が出て手が止まりそうになり、疲れからか眠気が襲ってくる。
自分はふとキッチンの棚を思い出し、何かあった気がするなぐらいの期待感でキッチンに向かう。
直感通りというか何というか、キッチンの棚には買い溜めで溜め込みすぎた様々なメーカーのインスタトのコーヒーの袋が並んでいた。
全く存在を忘れていたのに仕事中に眠くなった時に思い出すなんて、まるで「寝ないで仕事しろ」と無意識にも怒らているようで苦笑がうかぶ。
本当は何か茶菓子とか少し甘いものを思い浮かべていたのだが…、その落胆をよそに自分はコーヒーを淹れるためにポットに水をいれる。
風が寒そうな音をして窓に当たるのを聞きながら、ポットがあったまるのを待つ間も自分は頭の中は仕事まみれで我ながら呆れている。
こんなに考えてしまうのなら仕事と結婚もありかもな…と変に馬鹿を考えているとピッーと機械音が鳴って、ポットが温まった事を指していた。
自分は先程までの考えを振り切ってマグカップを取り出し、適当に取ったインスタトコーヒーから3杯程すくいマグカップの中に入れ込む。
自分は内心この作業工程が業務的でありながら少し楽しいなと感じながら少しルンルンでお湯を注ぎ、スプーンで混ぜた。
コーヒーの苦いような少し上品な匂いに酔いしれそうになるが、コーヒーを淹れた理由が仕事だと思い出すと少し重い匂いに感じたのは気のせいだと思いたい。
冬のたった何もない昼間の出来事なのに夢のような気分だ。気のせいだろうか、それともコーヒーのせいか?
どちらにせよどこか変に思い浸っている。
溺れて濡れた花畑。目の前には一面の花畑が水に沈んで、空は泣き終わったかのようにカラッとしていてやけに紫色を帯びていた。
足を一歩落とそうとした時、突如と水に溺れた。
水の中は不思議なものだった。
花弁がゆっくりと沈んでいるのに自分だけが引き込まれるように落ちていく、そして苦しくない。
ただ不思議で…少し虚しいような気持ちで沈んでいく。
光が揺れて水の中を差すが、その光は乏しくなっていった。
ふと目が覚めた、目の前には花畑が彩りに描かれた濡れた絵画があり自分の手にはバケツがある。そのバケツにはまだ少し水が入っており、辺りは水浸しで何があったのかを教えようとしている。
僕は君の描いた夢を台無しにしたんだ。
そうか…仕方なかったのか。いやただ理解したくなかっただけで…
考えるのが辛くなった自分勝手な僕は絵の具を手に取った。
君の絵の愛が邪魔だった。僕だけ見てほしかった、その愛が僕に向けばいいと思っていた。
だけど言えなかった。
行かないで欲しいなんて言ったら僕は人の夢を応援出来ない、嫌な人になってしまうだろう?…
君が画家になるために僕のもとを去ると言った時、君は夢しか見てなかった。僕の目に水が溜まったのを見ていなかった。
愛してるなら応援するべきなのかな、
君の夢が叶うまで待つべきなのかな、
僕のもとから離れる君を受け入れるべきなのかな、
分からない。もう何も分からないんだ。
君が僕のために描いたと言ったこの花畑の絵は一体なんなのか、何を思ってかいたのか。
教えてほしかった。
題名『I don't know』
何もかもが怖いよ。嫌いだ。
大人に頼るって嫌いだ。大嫌い。
道を歩いた、レンガの道を。
ふと空を見ると雨は雪に変わっていて、手のひらに舞い落ちた雪はすぐに体温で溶けてしまった。
それから、自分でどこに行く予定だったのかも忘れて、いつも行く公園に足を進めていく、寒さが頬るがそれすらも冬という季節を靡かせているかのようだ。
知らず知らずの間に時間は午後の7時を指していた。帰るべきか否か…いやどこに帰る?、公園に着くとベンチに積もった雪をどかし座る、するとどこからかコーンと小さく響いた音がした。遠くからの音だろうか、ああ思い出した。
目の前には優しく微笑む女性がいて、雪に少し隠れたスターチスの花束を持っていた。自分はそっと彼女の花束を受け取って立ち上がった、感情に咳き込まれるように彼女の手を引き抱き締める。
彼女の頬には少し水滴が付いており、雪が溶けたという彼女の目は赤かった、泣いていたのだろう。
優しく頬を撫で、自分の全てで彼女を包み込むように強く抱きしめ直し、目を潤ませながら何度も謝った。
題名『若年性アルツハイマー。』
彼女との出会いは今でも不思議な出来事のように覚えているよ。
彼女は白い髪に青い瞳をしていて、結構異質な姿をしてるのにも関わらず天使みたいに美しかった。
夏が終わりを告げ始めたセミの亡き頃、園芸部であった僕は植物の様子を見るために体育館の近くにあるのにやけに日当たりのいい温室に来ていた。
そこには居ないはずの人がいて、それは園芸部の部長と彼女だった、彼女は不思議な事に白い薔薇に青い絵の具を垂らして染めていた。
やけに美しいのにかなり変なことをする女の子で、部長も部長で、嬉しそうに彼女を見守っている。
僕は思い切って部長に一歩一歩近付いていく、すると部長は僕を見ていつもの暖かい微笑みを浮かべ、彼女を紹介するように手を広げる。
「彼女は今度転校してくる子なんだよ」
部長の言葉に、僕は少し戸惑った後に彼女に目を向ける。彼女はこちらに一度、目を向けた後に薔薇に気を取られたように目を戻す。
「何故彼女は薔薇を染めてるのですか?、というかこの時期に薔薇って…」
疑問のままに僕が彼女と部長に話すと、部長は少し言葉に詰まったようにしながら苦笑し頭をかく、彼女は手を止めて口を開いた
「青い薔薇が欲しいから」
彼女の声は澄んでいて綺麗だった、天使がいるのならこんな感じだったり?…僕はそんな事を思いながら彼女の青い薔薇が欲しいという言葉に興味を持った。
「青い薔薇は存在しませんが…染めてるなら知ってますよね、」
「ええ。」
僕がそう青く塗られ途中の薔薇を見ながら言葉を落とすと彼女は頷いて作業に戻った。部長は彼女の手伝いをするようにバラの花弁を支える
「彼女は好きなことに忠実だからね」
部長の優しい言葉が温室に音を生し、外のひぐらしの音が微かに聞こえた。
僕はそれ以上に話すこと無く、予定だった花の管理を終えて温室を後にした、扉を開けると夕焼けの蒸し暑さを無視するように風は少し秋の話をする。
彼女の視線が頭にいる。まぁ特徴的な子だったから、
そう、特徴的だったから…気になる理由を暑さのせいにするには時期が遅すぎたのかも知れない。
題名『青い花』