22時17分

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4/14/2025, 12:55:21 AM

ひとひらの、旅をしてきた色彩が、罪滅ぼしのようにやって来た。君はどこから来たんだろう。
この場所は草木の枯れた地形が続く。ピンク色の花びらが、たどり着くには因縁がなさすぎる。

僕は? と呈された気がした。
「僕は、この世界のサボテンダーみたいなもんさ」
そう言って、薄桃色の旅人を、ハンケチで丁寧に包み、懐へしまう。
それで、振り返り、また前を向いた。彼の後ろは足跡のみがひたすら続いていた。

4/13/2025, 9:19:01 AM

風景。

美術館に行って、風景画を見ていた。
彩色が当たり前の絵画ではない。黒一色で描かれた墨画である。江戸絵画、というので、これも水彩画の一種と捉えても問題ないだろう。

美術の教科書か何かで見たことのある有名な絵画を眺め見つつ、順路通りに進む。空気が変わったように感じた。水墨画のゾーンに入る。
巻物帳で、横長の台紙。
霧深い山間の夜を描いたもので、月明かりで照らされ映えている。遠景には月が。雲が。それとなく半紙の汚れが。個人蔵と書かれてあるから、それだろう。でも、風情がある。
このような様式では、まっさらな紙が最も白い。だから、霧を描いているのではなく、山際の夜の境と樹木の影に黒を差し入れている。現実から芸術として写し取る時に見た目を反転するのだ。暗闇の部分はあえて墨を入れず、景色に着目する。だから、昼の景色のように見えて、実は夜の景色なのだ、と説明書き。
白と黒の境は水をたっぷりと含ませた滲み方だった。
霧の中の少女のように、端麗な湖を描いている。黒一色なのに、閲覧者の想像力をかき立てて、色を想像させる見事さ。


4/11/2025, 9:33:11 AM

夢へ! 〇〇!

と書かれた横断幕が歩道橋の所に飾られてあった。
〇〇の部分は忘れてしまった。
「夢へ! 向かえ!」なのか
「夢へ! 進め!」なのか。
まあ、忘れても意味合いは変わらないだろう。
子供の頃に将来の夢なるものを書かされた記憶があるが、アレは何の意味があったのか、いまだによく分かっていない。人生、そう簡単に作られてないんだよ。という手始めに挫折のきっかけを作らされたような気がするなぁ、などと、歩道橋を渡った。

階段を上り、橋の方へと向かった。横断幕の下には大きな道路……片側二車線のバイパスが広がっている。アスファルトの上を高速で走行している音が、大きくなったり小さくなったり。車が近づき、または遠くなる。エンジン音の違い。車種、車のカラー。大型車中型車小型車バイクトラック……。
様々なものが、当たり前の景色として眼下で繰り広げられている。

高さ、というのは、下を見るのが怖くなる。
いつもは下にいるのに、あちら側に渡りたいと思って歩道橋を通して渡る。なぜこんな迂回路をしているのかと言うと、自分が歩行者だから。バイパスなので、信号と信号の間が長いので、階段で上がる労力を考えても歩道橋のほうが便利だから、というコストバランス。

歩道橋を下りて、横断幕の隅っこらへんに書かれている文字をみようと目を凝らしたが、如何せん見えん。どうせ近隣の学校が書いてあるんだと思われる。スローガンは生徒に募集したんかな。そうやって将来の夢を書いてもらうように生徒に書かせて、黒板の上とか教室の背景に掲げて、プレッシャーを与える。
車社会が一番注意を払っているのは何か。
歩行者だ。それも、通学路の隅っこにて歩く歩行者。学生や子供。新入生。卒業生。大学生。義務教育。幼稚園。それら一般的朝夕の光景……。
様々なものが、夢を通して当たり前をすり込んでいるように見える幕、霞む文字列。




(あとで)

4/10/2025, 9:32:07 AM

元気かな。

そろそろ桜散るけど、みんな大丈夫?
僕は平日朝、通勤電車で素通りするように見るだけなんだけど。「咲いてるなー」って。
休日になったら外に出る気が出ない。あと2日、持ってくれればよいのだけど。贅沢なんて言いません。葉桜でも構いません。
そういえば、最近美術館に行ったんだけど、葉桜の夜桜バージョンもなかなか風情があってよかったよ。
あっ、これを言うと嫌になるかな。葉桜になるということは、あとは暑くなるだけだからね。
ゴールデンウィークがゴールデンにならず、数年前から金メッキが剥がれてきたから。
みんな元気かな。

4/9/2025, 9:13:28 AM

遠い約束。

Twitterで見かけたことのあるネタであるが。
とある不幸な少年がいた。作者に嫌われたのか、不死身という特性がある。不老不死。いつまでも年を取らず、生き続ける事ができる。いかなる傷や病気にも耐え、それが神の力の象徴にもなり得た。

少年は幾度となく出会い、そして寿命という別離を繰り返し、やがて人間という種族との疎遠を選ぶ。人間はいつか死ぬ。その常識の範囲内にない、ヒト一生分以上のものを彼に託して息を引き取る。死んでからも傲慢だ。もうこりごり。そうして一人旅に出た。
そんな少年に対し、長寿命のエルフが声をかけた。
私たちは、ヒトの7〜8倍は生きる。ヒトの一生ではできないようなことができる。やろう。
そうやって、エルフは弓矢を教えることにした。
少年は、剣の達人ではあったが、遠距離戦のものは得意ではない。近づかなければ、声をかけられない。親密にならないで済む。そうすれば、数多ある一個人のうちに紛れる。目立たないことが穏当だ。そうやって自分の考えを保ってきた。

弓矢で森の小動物に当てられるようになると、エルフの世話役を頼まれた。100年以上生きてきたが、未だ青年期だというエルフ。
いつしか友のように近づき、森の住処にて暮らすようになる。ある日、エルフの腹が、ぽっこりと。目立つようになる。生まれるのはまだまだ先だ。妊娠期間など50年以上はある。ゆっくり歩こう。
いつしか三人で、世界地図の隅々まで、指を絡ませ歩くことを語り合い、エルフはそれを了承する。エルフの家の鍵を施錠し、あちこちを訪問した。数百年単位の新婚旅行のようなもの。

しかし、ここで物語の転となった。
ヒトより長く生きるとしても、長寿命というだけでいつか陰りが見える。エルフは、世界地図の5割を知った辺りで歩速が弱くなってしまう。少年は、手に取ろうとして、気付いた。まだ若々しいとはいえ、手の甲にいくつかの皺があることに……。
 
………。

「ねぇ、なんでわたしと付きっきりでいてくれるの?」
娘は少年に尋ねた。物心がつく前から、ずっと少年と旅をしている。耳が長く立っていて、弓よりも剣のほうが使い勝手が良いらしい。
少年は変わらない様子で、遠い目をしながら、「遠い約束を果たすためだ」と答えた。

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