22時17分

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遠い約束。

Twitterで見かけたことのあるネタであるが。
とある不幸な少年がいた。作者に嫌われたのか、不死身という特性がある。不老不死。いつまでも年を取らず、生き続ける事ができる。いかなる傷や病気にも耐え、それが神の力の象徴にもなり得た。

少年は幾度となく出会い、そして寿命という別離を繰り返し、やがて人間という種族との疎遠を選ぶ。人間はいつか死ぬ。その常識の範囲内にない、ヒト一生分以上のものを彼に託して息を引き取る。死んでからも傲慢だ。もうこりごり。そうして一人旅に出た。
そんな少年に対し、長寿命のエルフが声をかけた。
私たちは、ヒトの7〜8倍は生きる。ヒトの一生ではできないようなことができる。やろう。
そうやって、エルフは弓矢を教えることにした。
少年は、剣の達人ではあったが、遠距離戦のものは得意ではない。近づかなければ、声をかけられない。親密にならないで済む。そうすれば、数多ある一個人のうちに紛れる。目立たないことが穏当だ。そうやって自分の考えを保ってきた。

弓矢で森の小動物に当てられるようになると、エルフの世話役を頼まれた。100年以上生きてきたが、未だ青年期だというエルフ。
いつしか友のように近づき、森の住処にて暮らすようになる。ある日、エルフの腹が、ぽっこりと。目立つようになる。生まれるのはまだまだ先だ。妊娠期間など50年以上はある。ゆっくり歩こう。
いつしか三人で、世界地図の隅々まで、指を絡ませ歩くことを語り合い、エルフはそれを了承する。エルフの家の鍵を施錠し、あちこちを訪問した。数百年単位の新婚旅行のようなもの。

しかし、ここで物語の転となった。
ヒトより長く生きるとしても、長寿命というだけでいつか陰りが見える。エルフは、世界地図の5割を知った辺りで歩速が弱くなってしまう。少年は、手に取ろうとして、気付いた。まだ若々しいとはいえ、手の甲にいくつかの皺があることに……。
 
………。

「ねぇ、なんでわたしと付きっきりでいてくれるの?」
娘は少年に尋ねた。物心がつく前から、ずっと少年と旅をしている。耳が長く立っていて、弓よりも剣のほうが使い勝手が良いらしい。
少年は変わらない様子で、遠い目をしながら、「遠い約束を果たすためだ」と答えた。

4/9/2025, 9:13:28 AM