22時17分

Open App
8/21/2024, 3:51:46 AM

烏龍茶ってさ、コーヒーに似てるよね。
色とか、味わいとか。

ああ、ごめんごめん。
特に深い意味はないんだ。
ただ、この暗い色を見るとね、過去を思い出すんだ。

覚えてる?
君と出会って一ヶ月もしないうちに、とある町に寄っただろ。

俺たちは今のように服も食べ物も自由に買えなかったからさ、腹の虫を黙らせる手立てもなかった頃だ。
店の誰にも手を付けていない料理や美味しそうな肉さかなを堪えて、裏通りに捨ててあるゴミ箱を漁って、それで飢えをしのいでた。
こんなふうな泥水だったか、その頃飲んでいた水は。

……たしかに誇張だね。ごめんごめん。

でも、それが、いつからだろうね。
泥水から真水となり、ツララを砕いたかのような冷たさから常温になり、そして、カップに淹れられた温かなスープになり。

それでも、他の人の平均よりも下の生活水準だったから、まだまだ贅沢はできなかった。
コーヒー専門店というのも、嗜好品というのも納得の高さで、一杯800円のコーヒーだなんて、バカげてる!
一滴残らず飲み干した麦茶のペットボトルを、思いっきり握りつぶして、遠くにポイ捨てしようとしていた時だ。

麦茶もコーヒーも、水であってもひと口飲める量は変わらないよ。今まで通り一歩ずつ行こう。

そういうことを言われたもんで、今日があるというものだ。
一攫千金という夢は、地球が爆ぜるくらいに無理難題だったけれど、それは一人で立ち向かったらの話だ。
あの時も、今も、二人でいる。
この街の夜はまだまだ続くだろう。
君の人生ももう少し続く。
俺は、どうだろう。数年、いや数ヶ月か。
それでも、ひと口の量は変わらないでいる。

……(盃同士が、かち合う音)。

サヨナラを言う前に、もう一杯。

8/20/2024, 3:54:39 AM

空模様はぐるぐる。
誰かが空をかき回したみたいになっている。
今にも何かが落っこちそうな、悪い流れから別の悪い流れに模様替えしようとしている。

ゴロゴロと、分厚い雲の層から音がなって、カミナリがどど〜ん! と落ちてきた。
メダカも、他の小魚も、さっと岩陰に身体を隠した。
透き通る淡水の川底を一瞬白い景色に変え、即座に色が戻る。

空模様はぐるぐる。
上流の激しい渓流の水溜まり。
空は背景。
渦巻く川の表情を写し取って、ぐるぐるは止まらず。

8/19/2024, 6:09:47 AM

鏡の上に鏡の絵を描くという発想は、到底思いつかない。
確か『暗黒館の殺人』だったと思う。
詳細は伏せるのだが、山奥深くに住む館の住人たちは奇妙な秘密を抱いていて、特に館の主人は、毎日その鏡の上に描かれた鏡の絵を見るという。

当然絵なので、自身の姿は映らない。
そのことに主人はホッとするという。
そういった奇妙な行為をする。
絵は、たしか油彩だったか、水彩だったか忘れたのだが、まあ、やがて時が過ぎるごとに風化し、表面が剥げ、キラキラと鏡本来の性質が見えるようになる。
そのことに、館の主人は逆に恐れおののく、という場面がサラリと描かれる。
どうして?
という理由は、ネタバレになっちゃうので、書けないのですね。

『暗黒館の殺人』は、全4巻からなっていて、まあ1000ページは普通に超えるでしょうという長編ミステリ。
タイトル通り、『暗黒館』と呼ばれる真っ黒の洋館内で連続殺人が起こる。
いわゆるクローズドサークルというもので、この鏡の絵というもただの小道具かと思いきや、ちゃんとした機能を持つ、どんでん返しの一助を担う。

これだけでストーリーが浮かびそうなのに、こういったアイデアを多量に含ませて、あの長編ストーリーを描けるのは、やっぱり大御所だよね〜。
という感じに落ち着いてしまう。

8/18/2024, 9:40:12 AM

いつまでも捨てられないものを捨てよう!

という「断捨離」ブームが、数年ごとに流行っているような気がする。
たぶんコロナ禍終わりが直近だろうか。
大人では断捨離という言葉が流行っているが、漢字で固められていて若者受けしないためか「ミニマリスト」という言葉に言い改めた。
ちょっと言葉の定義が異なるのだが、トマトとトマトジュースくらいの違いだから、まあ別にいいだろう。
生食用トマトを使っているか、加工用トマトを使っているか。そのような具合である。

たくさんのモノに囲まれた生活では、時間の推移とともに干潮と満潮を繰り返さないといけない。
潮の満ち欠け具合は、海の話ではない。
モノの量の話だと思ってほしい。

モノが満潮時になると、月の引力に従うように物を浮かして、掃除機をかけないと干潮にならない。
ああ大変。どうしてこう大変なんだ。
グチグチと愚痴をこぼし、物をどかしては掃除機で吸う。

しかし、こうした掃除をするときほどよく考えてほしい。
物を買いすぎじゃないか?
要らない物を、家に溜め込み過ぎじゃないか?
欲しいから買う。欲しいから買う。
そのことを繰り返して、要るモノ要らないモノ問わず、モノを持ちすぎている。

――捨てよう! そうすれば過ごしやすくなるよ!
というのが、このムーブの主張である。

たしかに一理あるのだが、何となく古いものを捨てさせて、心機一転新しい物に目を向けさせて購買意欲を湧かせようとする安いセールスを感じさせる。
あるいは、「捨てる生活」というキャッチフレーズによって、目的のすり替えが発生してしまっているような気がしてならない。
生活の質を高めるどころか逆に下がってしまって、
「なんか前に断舎離したんだけどな……」
という、努力の果てにある落胆を感じさせるものがあったりする。

僕もそのムーブにあやかり、コロナ禍のときに断舎離をした。
今は中古本が収まっているが、断舎離前は小中学生時代の作品が飾られていた。
図画工作や技術家庭の作成キット、中学生卒業時に貰える造花(胸ポケットに差さる小さいやつ)も飾ってあって、いつ捨てるんだろうなとか他人事のように思っていた。

「ああいうものは写真に撮っておけば、何時でも見られるようになるので断舎離しやすくなります」

などという言葉を鵜呑みにし、その通りにした。
たしかに捨てやすくなり、丸ごとバナナのようにビニール袋に喰わせ、捨てた。
今ではその作品は写真一枚の偽物になって、本物はもう、焼却炉の中でまぜまぜされている頃だろう。

いつまでも捨てられないものに対して未練を感じる人はいいな、って時折思ったりする。
ストーリーがするすると書けている。ストーリーの正体は正体不明の未練だと思うけどね。

ただ、有形を無形に変える文化が浸透して、当たり前の世の中になってきている。
それが果たして良いものかどうか、僕は測りかねている。

物を捨てること。
まるで見えない何かも捨てているようで、それが焼却炉の中の有象無象とともに、無造作にまぜまぜされていることに、忸怩に似た思いを感じるのはどうしてだろう?
分別を間違えたかもしれない。

8/17/2024, 7:27:22 AM

誇らしさというのがお題である。
誇らしさ、とは何だろうか。
ざらっと他の人の投稿を見たのだが、いまいちパッとしないことを書いている。
みんな戸惑っているようだ。

う〜む、仕方がない。
誇らしさを探しに行こう。
例えばケーキ屋さんとか。

僕の場合、もうコンビニでいいかというていたらくなので、貧民救済のようにどこにでもあるコンビニのスイーツで済ましてしまう。
最近のケーキ屋さんは、どうなっているんだろう。
よく知らない。

自転車で15分。
シャトレーゼ的な小綺麗な建物に入店して、様々なケーキの入ったウィンドウを見ていった。店員はいない。
セルフレジか。

「いらっしゃいませ!」と、ケーキが喋った。
「さあ、私のことを食べてください。とても美味しいですよ!」

なるほど、最近のケーキ屋さんは喋るケーキを売っているのか。
コンビニに客が取られたことで、フランチャイズでもなく、店長を解雇して、ケーキに喋らせるようにしたのか。
なるほど、狂気である。気持ち悪い。

「お買い求めいただきありがとうございます! 
 ありがとうございます! お会計は800円です!」
「PayPayで」

買ったケーキがレジ打ちをし、レジ機のテンキーは生クリームで汚くなってしまったが、そういった汚れ仕事はケーキ屋の仕事でいいだろう。

保冷剤を適当に入れて、家に帰った。
鍵穴にカギを入れようとしたとき、「誇り」とは何かについてなんとなく察した。
バカみたいな例えだが、ここにケーキを入れても扉は開かない。生クリームでベトベトになるだけである。ここは、ここぞというときにカギが必要なのである。それも、鍵穴にあう、カギが……。

「さあ、私のことを食べてください!」
ちょっとうるさくて、思考が停止してしまった。
とりあえず家中へ。

外から逃れてきたままにリビングについた。
すかさずケーキは喋ってきた。
そういえば、外にいた時は喋ってこなかったな。

公共の空気を感じて、ケーキになりきっていた。
屋内から外を通り、別の屋内についたことで、マジョリティのあるケーキからマイナーなケーキに変わったようだ。

でもマイナーなケーキ、喋るケーキは食べる気が起きなかったので、コンビニに行って普通のケーキを買って、それを食べることにした。

喋るケーキは冷蔵保存して、しばらく無視することにした。

1年後。

「普通のケーキはもう食べ飽きたでしょう? さあ早く私を……」

あれから1年ほど経っているのだが、まだ喋っている。
冷凍庫に入れたら黙ってくれるのだろうか。
入れてみたが、まったく黙ってくれなかった。

「ああ……、買ったというのに食べないという放置プレイ。それもそれで本望です……」

雪女ならぬ雪ケーキである。
そういえば、そういう商品名だったような?

Next