烏龍茶ってさ、コーヒーに似てるよね。
色とか、味わいとか。
ああ、ごめんごめん。
特に深い意味はないんだ。
ただ、この暗い色を見るとね、過去を思い出すんだ。
覚えてる?
君と出会って一ヶ月もしないうちに、とある町に寄っただろ。
俺たちは今のように服も食べ物も自由に買えなかったからさ、腹の虫を黙らせる手立てもなかった頃だ。
店の誰にも手を付けていない料理や美味しそうな肉さかなを堪えて、裏通りに捨ててあるゴミ箱を漁って、それで飢えをしのいでた。
こんなふうな泥水だったか、その頃飲んでいた水は。
……たしかに誇張だね。ごめんごめん。
でも、それが、いつからだろうね。
泥水から真水となり、ツララを砕いたかのような冷たさから常温になり、そして、カップに淹れられた温かなスープになり。
それでも、他の人の平均よりも下の生活水準だったから、まだまだ贅沢はできなかった。
コーヒー専門店というのも、嗜好品というのも納得の高さで、一杯800円のコーヒーだなんて、バカげてる!
一滴残らず飲み干した麦茶のペットボトルを、思いっきり握りつぶして、遠くにポイ捨てしようとしていた時だ。
麦茶もコーヒーも、水であってもひと口飲める量は変わらないよ。今まで通り一歩ずつ行こう。
そういうことを言われたもんで、今日があるというものだ。
一攫千金という夢は、地球が爆ぜるくらいに無理難題だったけれど、それは一人で立ち向かったらの話だ。
あの時も、今も、二人でいる。
この街の夜はまだまだ続くだろう。
君の人生ももう少し続く。
俺は、どうだろう。数年、いや数ヶ月か。
それでも、ひと口の量は変わらないでいる。
……(盃同士が、かち合う音)。
サヨナラを言う前に、もう一杯。
8/21/2024, 3:51:46 AM