まにこ

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2/17/2025, 12:56:37 AM

ずっと、そうなったらいいなって心の底では思っていたのかもしれない。
汗ばむ肌、はらりと落ちる栗色の髪。
私は君よりも随分年上で、君の向けるそれは情愛と思慕とを取り違えているのだとずっと宥めすかし続けていたのに。
「どうしたら私の本気の想いをわかって頂けるのですか……!」
滅多に泣いている姿を見せない君の涙に、心は揺らいだ。
それと同時に自分の醜い本音が殻を破って首を擡げたのを感じた。
嗚呼、もう逃げられない。
お互い全てを取り去って、生まれたままの姿を曝け出して。
「ごめんね……もう離してあげられない」
「望むところです」
上に覆い被さる君からぽとり、落ちる汗が混じり合う。

2/16/2025, 1:00:12 AM

ずっと追い続けていた。
美しい光と共に消えていったあなたの行方を。
あの時あなたは、一体何を見たのですか。
会いたい、話をしたい、ワイングラスを酌み交わしたい。
艦内の窓から宙に目をやると、そこには只管弾け消えていった数多の星々が散らされている。
あなたもこの星の輝きの中にいるのだろうか。
どこか遠くで私を呼ぶあなたの声が、聞こえた気がした。

2/14/2025, 11:18:17 PM

その日の朝はこと骨身に染み入るような冷たさだった。
吐き出す己の息で悴む両の手をそっと温める。
朝刊を取りに行った郵便受けに夜露が光っている。
「世の中には必要な犠牲ってあると思うんだよね」
いつかあなたがくれた言葉を自分の中で反芻する。
ありがとう、身を以てその意味を証明してくれた。
リビングに戻り、温かいホットミルクを一つ机に置く。
朝刊のトップニュースからざっと言葉の羅列に目を通す。
今日もあなたの名前は載っていない。
それでも地球は廻って朝と夜とを一巡する。
お揃いのマグカップはいつまでも片割れを見つけられない。
絆創膏塗れの指で持つマグカップはほんの少し震えていた。

2/14/2025, 1:13:56 AM

「お兄ちゃん」
はい、と渡しているのは可愛らしくラッピングされたチョコレートだった。
途端、花が咲いたように綻ぶ笑顔を浮かべる兄と呼ばれた男。
「これって……バレンタインでくれるのかい?」
「そうです、大好きお兄ちゃん」
兄よりも大分背の小さい少年は、思いっきり兄の腰へと抱きついた。

「ああ、そう言えばそんなこともありましたねえ」
「あの時はただ、兄弟として……だと思っていたんだけどねえ」
ベッドで二人、大の大人が裸で寝転んでいる。
枕元には手作りらしい、少し歪な形をしたチョコレートの食べ残しが置かれていた。
「私はあの頃からずっとあなた一筋です」
お兄ちゃん、と真剣みを帯びた眼差しが真っ直ぐに兄を射抜く。
「……君って時々、凄くストレートな物言いをするよね」
「あなた限定ですよ」
にこり、と笑む弟らしき男。
「あなたの手作りチョコを食べられる、世界一幸せな弟です」
パキリ、と枕元にあった一欠片のチョコを口に咥えて兄の口元へ近寄せる。
ほんの少しの間があって、やおら兄もそのチョコレートの端をカリ、と齧った。
ミルクチョコレートのふわりとした香りが二人を優しく纏っていく。

2/13/2025, 1:02:48 AM

そう遠くない未来、身も心も堕ちてしまう気がした。
何が俺をそうさせたのかは分からない。
ただ只管逃げなければという己の直感に従い、着の身着のまま身を隠すに至る。
それなのに、だ。
「帰ろう」
どうやってここを嗅ぎつけたのかは分からない。
目の前にいる白髪の男、よく見知った顔なのに、今はただただ身体の震えが止まらないのだ。
「お主、本当は知っておったのじゃろう」
男は俺の身体を指差す。
「……もう、そこにおる、よ」
少し膨らんだ己の腹、ここ最近の嫌になるほどの体調不良、答え合わせをされた気がした。
「帰ろう、皆がお主の帰りを待っておる」
くらくら目眩がした、と思ったらそのまま意識は泥のように闇中に沈んでいった。

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