「お兄ちゃん」
はい、と渡しているのは可愛らしくラッピングされたチョコレートだった。
途端、花が咲いたように綻ぶ笑顔を浮かべる兄と呼ばれた男。
「これって……バレンタインでくれるのかい?」
「そうです、大好きお兄ちゃん」
兄よりも大分背の小さい少年は、思いっきり兄の腰へと抱きついた。
「ああ、そう言えばそんなこともありましたねえ」
「あの時はただ、兄弟として……だと思っていたんだけどねえ」
ベッドで二人、大の大人が裸で寝転んでいる。
枕元には手作りらしい、少し歪な形をしたチョコレートの食べ残しが置かれていた。
「私はあの頃からずっとあなた一筋です」
お兄ちゃん、と真剣みを帯びた眼差しが真っ直ぐに兄を射抜く。
「……君って時々、凄くストレートな物言いをするよね」
「あなた限定ですよ」
にこり、と笑む弟らしき男。
「あなたの手作りチョコを食べられる、世界一幸せな弟です」
パキリ、と枕元にあった一欠片のチョコを口に咥えて兄の口元へ近寄せる。
ほんの少しの間があって、やおら兄もそのチョコレートの端をカリ、と齧った。
ミルクチョコレートのふわりとした香りが二人を優しく纏っていく。
2/14/2025, 1:13:56 AM