「あなたの心と身体を奪います」
そう宣言してから果たしてどれくらいの月日が経っただろう。
身体は早々に奪うことに成功した。
それでも中々ココロを溶かすことは未だに出来ずにいる。
あなたのココロが心になって、こころを開いてくれるのはいつの日になるのか。
「……もう、いやだ」
「はいはい、またいつものですね」
布団の中に篭って出てこない。
それを無理くりひっぺがすと、小さく身を縮めた裸の男がいた。
怯えたようにこちらを見つめる、泣き腫らした瞳が愛おしくてたまらない。
「今日こそあなたのココロをください」
ゆっくりと覆いかぶさる。
身体を蕩かすことで、いつかあなたの頑ななココロも解けていけばいい。
空からひとつ零れ落ちる雫を指で追い掛けてみる
昔祖母が言っていた、流れ星がひとつ落ちると魂がひとつお空に上がっていくんだよ、の言葉がどこか今では近く感じられた
あの日もきっと夜はたくさんの涙が零れ落ちたのだろう
私の流す涙もいつかそこに綯い交ぜになってキラキラ輝いて消えて、昇華されるのだろうか
今はまだ、お星さまになれそうにはない
陽の光が燦々と降り注ぐ。
眩しくてゆっくり目を開けると、君の大きな背中と引っ掻き傷がいくつも付いているのが分かった。
ついこの間まで「お兄ちゃん」と自分を慕って、キラキラした眼差しで着いてきていたと思ったのに。
いつの間にこんなに逞しく、大きくなったのだろう。
本来なら君の隣にいるのは私ではなくて、美しい女性と家庭を築いて子を成して……
じくじくと胸の奥が痛む。
分かっていた、もう彼を放してあげることなど決してできないのだと。
可愛くて愛おしくて、いつの間にか自分の中の一部に彼がいる。
「……普段からそれくらい私のことも熱っぽく見てください」
急にごろん、と彼が此方を向いた。……いつの間に起きていたのか。
「背中が熱で焼けるかと思いましたよ」
「……何、言ってるの」
真っ直ぐにこちらを見つめる熱い視線。思わず目を逸らしてしまう。
「もっと私を見て、先生」
額に柔らかい感触、接吻されたと気付いた時には上にのしかかられていた。
「こ、こら……こんな朝から」
「あまりにも情熱的なお誘いをしてくれたじゃありませんか」
お兄ちゃん、そう呟いた唇と自分のそれとが重なる。
色々と反論したい言葉は全て吸い込まれてしまった。
生きる次元が変わった。
私はその時、明確にそれを肌で感じたのだ。
サヨナラ。
あなたと私が交わる世界線はもう二度と来ないけれども、どうかお元気で。
どこか遠くで生きるあなたに心からの祝福を。
うふふ。
絶対に分かりゃしないんだ。
犯人探しに躍起になってる警察共を見下ろす。
私はここにいるっていうのに。
候補は?動機は?方法は?
うふふ。
絶対に分かりゃしないんだ。
しかしその刑事は粘り強かった。
次々に明らかになる候補たち。それっぽい動機も見つかってゆく。
あとは方法だけ。
そこにきて途端に詰む。
うふふ。
絶対に分かりゃしないんだ。
だって私はここにいるのに。
「なくなっていい命なんて何一つ無い」
ほざけ。反吐が出る。
「あなた、だったんですね」
「たとえ犯人が自分自身だったとしても」
「なくなっていい命なんて何一つ無い」
嗚呼、見つかってしまった。
完全犯罪、なんて中々できないものだ。
「他に方法は無かったんでしょうか」
薄っぺらい御託は結構。
「残念です」
うふふ。