もうちょっと居てくれたっていいじゃない。
あなたお願いよ、傍にいてほしい。
そんな私の切実な願いはあっという間に破かれていく。
「2月1日」
1月のカレンダーはなんの躊躇いもなくゴミ箱へ。
「何なら今日は2月2日ですよ?」
呆れ顔で君がクスリと笑うので、私の残念だった気持ちもどこかへ飛んで行ってしまった。
行きたかった場所へ行き、記念に収めるべくスマホを構えてシャッター音を鳴らす。
ご当地ならではのグルメに舌鼓を打ち、普段見ることのない景色を心のアルバムへ残していくのだ。
非日常を重ね続ければそれはいつか日常になりうる。
「まるで人生ね」
薄く口角を上げたその人は何処か寂しそうな目の色を浮かべていた。
あの時まで君は確かに私の弟分だった。
「好きです」
その言葉が君の口から解き放たれるまでは。
そこからの関係性は歪な形になった。
少なくとも君を憎からず思っていた私にとってその言葉は呪いだ。
「……何を考えていらっしゃるんです?」
「ッ、な、にも」
薄ら寒いこの部屋に、互いの剥き出しの素肌はあまりにも熱すぎる。
君からの口吸いも君からの愛撫も何もかも私は知らない。
一体どこで覚えたんだそんな手練手管は。
君の全てを知っているつもりでいたのに、嗚呼まだまだ私は君のことを知らない。
「随分余裕ですね」
否定しようとした唇は直ぐに塞がれることになる。
ずっと光の中でいたら眩しくて疲れちゃうから。
だからたまには柔らかい日陰でホッと一息つきたい時だってある。
木の葉から漏れる木漏れ日なんて最高のリラックスだ。
風が吹けば爽やかな香りを運んでくれる。
日陰があるからまたお日様の下で頑張れるのだ。
日向と日陰、どちらも大切にしていきたい。
普段、私はそれを使わない。
しかし今は時は一刻を争う事態だ。
「何でもいい、頭を守れ!」
誰かの怒号が響く。
机の下に入り込む時間は無かった。
近くにあった帽子を引っ掴み、勢いよく被る。
その数秒遅れて、割れたガラスがパラパラと降り注いできた。
未だ揺れは、収まりそうにない。