まにこ

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1/27/2025, 11:46:34 PM

初めて手を繋いだ時に分け合った熱は今思えばそういうことだったのだろう。
あれから少しずつ、日々小さな勇気を重ねることの連続だった。
この想いを口から出してはいけない気がしていて、だからこそ育まれていった熱量。
想いの瓶はいつの間にか一杯になっていた。
「好きです」
つい身体の外へとまろびでたのは、生涯言うつもりが無かった熱だった。
言ってしまった。やってしまった。
今更訂正するのは遅すぎた。
恐る恐る相手の様子を伺う。
ほんのり熱を帯びた耳、まあるく見開かれた瞳。
これはあと少しの勇気があれば存外何とかなるかもしれない。
「お兄ちゃん」
勝利を確信し、その胸に確りと飛び込んだ。

1/26/2025, 10:36:31 PM

目に映るもの、全てが眩しかった。
そこには必ずと言っていいほど貴方がいたから。
しかし、そう気付いたのは離れ離れになってからである。
またあの光を取り戻したい。
そうだ、今から会いに行こう。
貴方の驚く顔が目に浮かんだ。

1/26/2025, 4:43:59 AM

熱で逆上せた頭ではもうどれだけの時間が経ったのかも分からない。
煎餅布団の上に押し付けられる己の背中がひたすらに悲鳴をあげる。
否、背中だけではない、もう全身が既に疲弊している。
折り曲げられた腰、肌と肌とがぶつかり合って擦れあって、突き上げられて。
時折変わる体勢も、下半身の繋がりは決して外してなどもらえない。
意識を飛ばして闇の微睡みに沈み込みたくても、都度頬を優しく叩かれて無理矢理に覚醒させられる。
どうしてこんな事になったのだろう。
たらりと垂れる鼻血は柔い舌で舐め取られてしまった。
「甘いのう」
半月に細められる目がこちらを確りと見下ろす。
「も……や、め」
嗄れた声で制止を乞う。
「終わらぬよ」
「え……」
男の口角は変わらず上がったままだが、赤い眼は真っ直ぐにこちらを射抜く。
「お主はワシのものじゃ、永久(とこしえ)にな」
その後すぐに一層激しく揺さぶられてしまい、言葉の真意を問うことは叶わなかった。
嗚呼何が男の逆鱗に触れたのか、言葉通り二度と離してもらえなかった哀れな一人の人間の物語。

1/25/2025, 12:33:50 AM

一つの嘘をつくには七つの嘘をつかねばならない。
その七つの嘘をつくには四十九の嘘が必要だという。
嘘に嘘を重ねるうちに、恐らく真実も何もかもが闇中に消えていくのだろう。
私は最期まで嘘を貫くことができただろうか。
そして優しいあなたの嘘を見抜くことなく逝くことができたのだろうか。
今、あなたは笑えていますか。
私にはそれだけが心残りでなりません。

1/24/2025, 4:28:46 AM

もう何度瞳をとじてこの場をやり過ごしてきただろうか。
思ってもいない感情を口にして、感じてもいない甘やかな声を出す。
適当にこのじっとりとした時間をやり過ごしてただひたすらに金を稼ぐ。
借金の肩代わりに売られた郭。
いつかここを出られる、それだけを夢見て今日まで生きてきた。
「お前に身請けの話が来ている」
現実は甘くは無かった。こんな形で外に出られても所詮は籠の中の鳥である。
それでも首を縦に振る以外に選択肢は無い。

「待っておったよ」
身請けされた先は果たして今までの客の顔ではなかった。
何故、顔も素性も知らない自分を、大金はたいて身請けなんて、どんな酔狂人かと思えば。
白髪の、老人のような大男。片目だけ見えるその目は丸い三白眼で瞳の奥が赤く光っている。
最初に抱いた素直な感想がそれだ。
おいでおいでとやたら笑顔で手招きをする男。
どうしてか背筋に冷たいものが走る。

「何もお主を取って喰いやしない、おいで」
こちらの心中を見抜いたような台詞を口にする男。
失礼します、男の傍まで歩み寄ろうとするも、何故だかその場から足が動かない。
「……やれやれ、仕方ない」
やおら男の白髪がシュルリと伸びた、と思ったらそれは自分の全身に絡み付き、そのまま男の元へと引き寄せられてしまう。
「ば、化け物……っ」
しまった、と思う。相手は得体の知れない奴でこれから己の生涯を捧げなければならないのに、恐怖で口が滑る。
「まあ、そう怖がるでない」
慣れた口調で男は言う。
絡みついていた長髪はするりと男の元に戻り、ただの短髪に元通りだ。
ふと気を抜いた瞬間にぐいと腕を引っ張られて、そのまま男の腕の中にすっぽり収まってしまった。
「ほんに愛いのう、漸くこれでお主はワシのものじゃ」
なでこなでことばかりに頭を撫でられる。
初対面の筈なのに、この距離感はおかしいはずなのに、それが何故だかとても心地が良くて。
これからめくるめく身請けされた人間としての人生、決して生半可なものでは無い筈なのに、男の腕の中ふわりふわりと温かな微睡みへと沈んでいった。

「また会えたのう、𓏸𓏸」

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