まにこ

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11/14/2024, 7:47:00 PM

秋の風がそっと頬を撫ぜる。
暑かった夏もようやく落ち着きを見せてくれた。
そう思っていたのも束の間、今度は一気に気温が下がるというから驚きだ。
路面の銀杏並木も急に寒くなる温度に慌てて葉を黄色に色付け始めた。
少しずつ四季が変わりゆくのを肌で感じる。
秋風よ、もう少しだけ傍にいて

11/13/2024, 10:12:46 PM

「また会いましょう」
あなたは確かにそう言った。
それなのに何故。
次に会えたのは真っ白い箱の中。窓を叩いてももう二度と微笑んではくれないのね。
美しい白百合がとても良く似合う。
嗚呼どうかもう一度目を開けて、私を見てほしい。
あなたに似合う私になれたでしょう、あなたのその目でどうか確かめて。
白い箱の君は、優しく瞼を閉じたままだった。

11/12/2024, 10:33:18 PM

皆に見られている。
否、見られていると言うより、自分の一挙手一投足を注目していると言えば良いのか何なのか。
決して自分自身を見ているという訳ではないのに、緊張でチョークを持つ指が震える。
普段より声も中々出せない、口を開けば意味の無い言葉がまろびでそうになる。
しかし授業は続く、教師である自分が主導しなければならないのに。
そのとき一段と動きが激しくなる例の、アレ。
もう立っていられない、思わずその場にしゃがみこむ。
分かりやすくざわつく生徒達。当たり前だ。こんな醜態を晒すなんて、嗚呼情けない。
そのとき一人の生徒がゆらり手を挙げた。
「先生、ご気分が悪いンですネ?僕が保健室に連れて行きましょう」
こうさせた張本人なのに、生徒はあくまでも涼しい顔して宣う。他の生徒達も心配そうに見つめる中、この一見親切そうな申し出を断る訳にはいかなかった。
何とか黒板に自習という文字だけ書く。
それじゃ先生、行きましょうかと差し出された手を渋々握る。
これは悪魔の申し出なのに情けない。でもこれ以上他の生徒たちの前でマトモな顔も出来そうにない。
分かりやすく口角が上がった悪魔の顔を、その時気付くことができなかった。

11/11/2024, 11:29:42 PM

目に見えて傷がついているのならばきっとお医者様に治して頂けるに違いない。
そうではない、表面上は美しく立派な翼がそこにはある。
これを診てもらったとて、「特に問題なさそうですね」と一言いわれて終わるだけなのだ。
私の心が囚われている、あの人に。
今日も空は雲一つない美しいブルーで満たされているというのに。
きっとこの大空で翼をはためかせたら気持ちが良いだろうなあ、全てのことから解放されるだろうなあ。
嗚呼、あの人の足音が聞こえてくる。
逃げられない、私はこれからも永遠に。

11/11/2024, 6:16:11 AM

それをよく箒代わりにして皆で空を飛んでいたっけ。
三角座りしていたB子は、川辺で揺れるススキを見つめながらぼんやりと過去に思いを馳せていた。
あの頃は良かった。その時を目一杯生きればそれで人生の課題をクリアすることができていたから。
「母ちゃん!」
おもむろに息子が背中に突撃してきた。鈍い痛み、でも嫌いじゃない。
「B子ちゃん、そろそろ帰る?」
後からやって来た夫が手をゆっくり差し出してくる。
そう、今はもう自分のことだけを考えていたら良い訳では決して無い。
子どものこれからのこと、お金、夫やその家族。考えなければならないことは、空を飛んでいた頃よりも遥かに多い。
それでも、B子は夫の手を握る。
もう空は飛べなくなったけれど、また人生の新たなステージに私はいるのだきっと。
「見て、ススキって空を飛べるんだよ?」
揺れる一つを手折り、息子に見せると途端に輝き出す瞳。
「母ちゃんすごい!まるで魔法使いだ!」
そんな様子を微笑ましく見守る夫。
心の中に柔らかな香りが立ちのぼる。

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