それをよく箒代わりにして皆で空を飛んでいたっけ。
三角座りしていたB子は、川辺で揺れるススキを見つめながらぼんやりと過去に思いを馳せていた。
あの頃は良かった。その時を目一杯生きればそれで人生の課題をクリアすることができていたから。
「母ちゃん!」
おもむろに息子が背中に突撃してきた。鈍い痛み、でも嫌いじゃない。
「B子ちゃん、そろそろ帰る?」
後からやって来た夫が手をゆっくり差し出してくる。
そう、今はもう自分のことだけを考えていたら良い訳では決して無い。
子どものこれからのこと、お金、夫やその家族。考えなければならないことは、空を飛んでいた頃よりも遥かに多い。
それでも、B子は夫の手を握る。
もう空は飛べなくなったけれど、また人生の新たなステージに私はいるのだきっと。
「見て、ススキって空を飛べるんだよ?」
揺れる一つを手折り、息子に見せると途端に輝き出す瞳。
「母ちゃんすごい!まるで魔法使いだ!」
そんな様子を微笑ましく見守る夫。
心の中に柔らかな香りが立ちのぼる。
11/11/2024, 6:16:11 AM