皆に見られている。
否、見られていると言うより、自分の一挙手一投足を注目していると言えば良いのか何なのか。
決して自分自身を見ているという訳ではないのに、緊張でチョークを持つ指が震える。
普段より声も中々出せない、口を開けば意味の無い言葉がまろびでそうになる。
しかし授業は続く、教師である自分が主導しなければならないのに。
そのとき一段と動きが激しくなる例の、アレ。
もう立っていられない、思わずその場にしゃがみこむ。
分かりやすくざわつく生徒達。当たり前だ。こんな醜態を晒すなんて、嗚呼情けない。
そのとき一人の生徒がゆらり手を挙げた。
「先生、ご気分が悪いンですネ?僕が保健室に連れて行きましょう」
こうさせた張本人なのに、生徒はあくまでも涼しい顔して宣う。他の生徒達も心配そうに見つめる中、この一見親切そうな申し出を断る訳にはいかなかった。
何とか黒板に自習という文字だけ書く。
それじゃ先生、行きましょうかと差し出された手を渋々握る。
これは悪魔の申し出なのに情けない。でもこれ以上他の生徒たちの前でマトモな顔も出来そうにない。
分かりやすく口角が上がった悪魔の顔を、その時気付くことができなかった。
11/12/2024, 10:33:18 PM