もふもふチャンネル

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1/19/2026, 9:54:10 AM

『閉ざされた日記』


 わたしは毎日日記を書いている。

 最初のころは書きはじめるまでに随分と時間がかかっていた。

 何十分、下手をすると1時間以上も、ぼーっと机の上を眺めているだけ。頭の中では色々と考えているのだが、何を書けばいいのか、上手く内容がまとめられなかった。

 しかし、今ではなんて事はない。
 気づけば習慣のひとつとして体に染み付いている。
 やはり何事も継続が大切なのだろう。

 日記の内容はその日によってまちまちで、自分が体験したこと、考えたこと、今日のニュース、とか。
 特に書くことが無ければ明日の予定について綴ることもあった。

 それでも、どうしても何もない時は1行目に『特に何もなし』と一言だけ書いて、その日の日課は終了としていた。
 それくらい気楽な方がいいと思う。
 でなければ、日記なんてもの私には続けられない。
 
 そんな私がそれでも日記を書こうと思ったのは、いつか自分で読み返すとか、死んだあと家族に読ませるためのものとか、そういった類の理由ではない。

 私は書き終えた日記は自分でも読めないよう、金庫の中に保管している。
 
 何十年、もしかすると何百年後。

 この閉ざされた日記が誰かの手に渡り、それがいま私が生きている時代の歴史を紐解く記録の一つとして、末永く残り続けてくれたらいいな。

 なんて、ロマンチックに目覚めたからである。
 

 

12/8/2025, 10:43:45 AM

『雪原の先へ』


 視界は真っ白で何も見えない。
 降り注ぐ大粒の雪が瞳を打つたび、眼球が凍りつきそうな痛みが走り、思わず目を閉じてしまう。

 一度目を伏せると、そこは深い暗闇の世界だ。
 暗闇の番人が、どこまでも、どこまでも、私を闇の底へと誘おうとする。

 その誘惑に負けてしまえば、もう私に明日はない。
 頭では理解していても、ゆっくりと、しかし確実に、闇の番人は私のすぐそばまで迫ってきている。

 だから私は足を動かし続ける。
 一歩、一歩、確実に。
 前に進むため。

 先に言っておくが、これは決して不慮の事故なんかじゃない。
 雪原には、私の自らの意思で入っていったのだ。
 普通に暮らしていれば、こんな苦労をすることは無かっただろう。
 
 転ばぬ先の杖とはよく言うが、後悔先に立たずもよく耳にする話だ。

 何にせよ、もはや私は、この雪原の先に何があるのか確かめる他ないのである。

6/24/2025, 5:05:12 AM

『子供の頃の夢』


 原っぱの真ん中で竜が眠っていた。

 大きな体躯は燃えるように赫く、分厚い鱗の瞼は硬く閉じられる。
 長い口元が寝息を立てるたびに、そこから熱を帯びたものがこぼれ、少しだけ景色が揺らいだ。

 竜は円を描くように寝そべっていた。
 垂れた翼が陽を遮り、円の中に深い影を作る。
 その奥にぼんやりと見えるのは、小さな人影だ。

 歳はまだやっつを迎えたばかり。
 1人の少年が、竜の小指もない小さな体を大の字にして、心地よく寝息を立てていた。

 少年は夢を見ていた。
 母親のように、強く気高い竜となって大空を自由に駆ける夢。
 
 彼はいつか自分も竜になると信じていた。
 竜も彼が自分の子どもだと信じていた。

 夢の中で竜が旋回すると、少年も寝返りをうって母親の胸の中にうずくまる。 
 竜は少しだけ瞼を動かすと、また静かに寝息を立て始めた。

 いつしか少年は20歳を迎えていた。
 だが彼は大人になっても竜になることはなかった。

 人の村で暮らすことを選んだ少年を、竜は遠くの山から見守っていた。
 竜は何も言わなかった。ただ、静かに目を細める。

 やがて年老いた彼は、子供の頃の夢を思い出す。
 
 母親のように立派な竜となって、大空を駆ける夢。
 結局、彼の夢は叶うことはなかった。

 次の日、再びあの原っぱを訪れた。
 けれど竜はもう、どこにもいない。

 そこにはただ、赫く焦げた円の跡があるだけだった。

 

6/20/2025, 3:08:35 PM

『好き、嫌い、』

 
 上靴を捨ててやった。
 勉強道具を捨ててやった。
 やたら金持ちだったので、財布を持って来るたびに中身を抜いてから、捨ててやった。

 暴力はバレるので、自分でアザをつくり殴られた”ふり”をしてやった。

 職員室で彼女は必死に否定したが、私のアザまでは否定できない。その晩、彼女は親を連れてきて、私の家まで謝りに来た。

 そんなことを毎日し続けた。
  
 いつしか彼女には誰も寄りつかず、教員も庇うことをしなくなった。
 聞けば、家族との関係も悪くなったという。

 いくらなんでもやりすぎだって?
 そんなことはないだろう。

 ある日、彼女は顔に大きなアザを作って登校する。親に殴られたのだろう、いい気味だ。

 これを機に私たちは彼女を毎日殴れるようになった。
 アザが増えても、親のせいにできる。
 彼女の親も何も言ってこない。
 
 傷だらけで、ふらふらと抜け殻のように歩く姿を見て、私は彼女に『死体』と名前をつけてあげた。

 みんな気に入ってくれたようだ。
 
「なんで生きてるの?」

 って、みんなから言われるのを見ていると、とても愉快な気持ちになる。
 
「どうして、こんなひどいことをするの」

 ある時、彼女は私の席に来てそう言う。
 声色は少し強かったが、目は死んでいた。

「きもいから話しかけないで」
「教えて」

「は?」

 生意気な態度を取られたから、その日はみんなで彼女を殴り続けた。
 
 好き、嫌い、そんな理由じゃない。
 始まりは、ちょっとだけ気に食わなかっただけ。

 敵を作らないと、味方は作れないんだよ。

 ________みんなだって、そうでしょう??
 
 私は席に戻る。
 いつものように、何事もなかったかのように。

6/18/2025, 11:26:37 PM

『系』


 いつからか、私の前に一本の細い糸が伸びるようになった。

「あんたにも、見えるのかい」

 ある日、通りすがりの老婆に声をかけられた。
 なんでもこの糸を手繰り寄せると、その時の自分に一番必要なものが手に入るという。

「系は一度使うと二度と現れぬ。万一の拠り所として、いつまでも残しておくといい」

 そう言って、老婆はどこかへ消えてしまった。

 私は老婆の言いつけを守り、糸を使わないでおくことにした。

「キミ、変わったよね。なんというか、自信がある」

 最近は仕事仲間から、よくそう言われるようになった。

 万一のときは、糸が助けてくれる。
 その安心感が私を強くしてくれたのだ。

 やがて良い妻にも巡り会い、糸のおかげで、私の人生は見違えるほど良くなった。

「ふざけないでッ!!」

 ある日、私は妻と大喧嘩をした。
 共に生活をすれば意見のすれ違いなど幾つもあるだろうが、この日ばかりは私に非があった。

 浮気がバレてしまったのだ。

「し、信じてくれ。私が愛しているのはお前だけだ」

 どれだけ言葉を並べても、妻は私を信じようとしない。

「これから父さんのところに行って全て話すから。あなたもついてきて」
「そ、それだけは、勘弁してくれ」

 泣きつく私を払いのけ、妻は支度を始めてしまう。

 この状況からなんとか助かる方法はないのかと、私は必死に糸を手繰り寄せる。

 出てきたのは、菓子折りだった。

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