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『子供の頃の夢』


 原っぱの真ん中で竜が眠っていた。

 大きな体躯は燃えるように赫く、分厚い鱗の瞼は硬く閉じられる。
 長い口元が寝息を立てるたびに、そこから熱を帯びたものがこぼれ、少しだけ景色が揺らいだ。

 竜は円を描くように寝そべっていた。
 垂れた翼が陽を遮り、円の中に深い影を作る。
 その奥にぼんやりと見えるのは、小さな人影だ。

 歳はまだやっつを迎えたばかり。
 1人の少年が、竜の小指もない小さな体を大の字にして、心地よく寝息を立てていた。

 少年は夢を見ていた。
 母親のように、強く気高い竜となって大空を自由に駆ける夢。
 
 彼はいつか自分も竜になると信じていた。
 竜も彼が自分の子どもだと信じていた。

 夢の中で竜が旋回すると、少年も寝返りをうって母親の胸の中にうずくまる。 
 竜は少しだけ瞼を動かすと、また静かに寝息を立て始めた。

 いつしか少年は20歳を迎えていた。
 だが彼は大人になっても竜になることはなかった。

 人の村で暮らすことを選んだ少年を、竜は遠くの山から見守っていた。
 竜は何も言わなかった。ただ、静かに目を細める。

 やがて年老いた彼は、子供の頃の夢を思い出す。
 
 母親のように立派な竜となって、大空を駆ける夢。
 結局、彼の夢は叶うことはなかった。

 次の日、再びあの原っぱを訪れた。
 けれど竜はもう、どこにもいない。

 そこにはただ、赫く焦げた円の跡があるだけだった。

 

6/24/2025, 5:05:12 AM