泥(カクヨム@mizumannju)

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12/25/2024, 1:49:14 PM

『クリスマスの夜』

最近は、よくわからないが不安でいっぱいになり、夜眠れない。昨日、というか今日も寝ついたのは朝方で、確か最後に時計を見たのは4時半だった。次に目が覚めた時には14時だった。さすがに絶望した。クリスマスだというのに半日も無駄にしたということ、ここまで寝ていても誰からも連絡がなく、今年もひとりで過ごすのだと確信したということ。あまりにも馬鹿馬鹿しい。なんだか呆れた。
昨日、家から帰る途中の駅で、帰るのを渋る彼女と、また遊ぼうねと声をかける彼氏を見かけた。正直、こんなところでやってほしくないと思ったんだけど、そういえばクリスマスだからな、と納得した。別に悲しい訳でもないのに、悲しくなくてはいけないような気がして、大きなため息をついた。今日の夜は友達に電話でもしてみようか──いや、きっともうすぐ寝てしまうな。既に寝ているかもしれない。
ひとり、コンビニで買った小さなケーキを頬張っていると、通知音がした。

メリークリスマス!

たったそれだけだった。私の好きな人は、こういうことをする。だから好きなのだけれど、起きているならそう言ってよ、と思った。電話しよう、って言ったら、いいよって返ってくるだろうか。ケーキなんて放っておいて、その言葉を打ち込んでみるか迷い始めた。きっとそうすれば、私の眠れない夜はきっと良くなる。贅沢な夜だと思った。

12/23/2024, 11:01:01 AM

『プレゼント』

はあ、いちばん嫌な季節。幸せに満ちた2人組の横を通り過ぎていくと同時に、あなたとは結ばれないことを痛感してしまう季節。いちばん、心が冷え込む。

「ねえ、」

放課後、いつものように勉強していたわたしは、誰かに声をかけられて、振り向いた。

「クリスマスなのに1人で勉強してんの?悲しいヤツ」
「あんたも一緒でしょ」
「それを言うな」

隣に座った彼。苦しいだけなのに、なんでわざわざこんなこと。どうにかして彼をこの場から追い出したかった。私の傷口に塩を塗らないで。余計、わかってしまうでしょう。でも彼は残酷で、楽しそうに話を始めるのだった。

「あ、そうだこれ。あげる」
「……ん?…なんで」
「ほら、いつもお世話になってるから」
「…ええ………」
「なんだよ!」
「いや、…ありがとう、わたしも今度持ってくるね」
「よっしゃー!」

不意に手渡されたものは、綺麗にラッピングされたプレゼントのようなものだった。唖然として、言葉を紡ぐので精一杯で、今なら槍が降っても不思議には思わない。プレゼントを開けてみていいか聞くと、いいよと返ってきたので、そっとラッピングを剥がす。美味しそうなお菓子のパッケージが顔を覗かせた。

「え、美味しそう」
「良かったら食べてくださ〜い」
「……ありがと」

外を見ると、雪が降っていた。やけに寒いと思ったのは、そのせいなのか。…いや、本当は少し温かさすら感じている。もう、今のわたしは何が何だかわからない。

どうか、雪が深く深く積もりますように。きっとそうしたら、私の想いも隠してくださるでしょう。そうしてまた、何事もない日常がやってきますように。

12/21/2024, 1:03:28 PM

『大空』

放課後になれば、少しばかり涼しくなる。吹奏楽部の楽器を吹く音が聞こえてきた。屋上の方からは応援団の練習している声がする。それに紛れて、どこかの部活の叫ぶような声。きっと、これは青春なのだ。それはわかってるのだ、わかっているつもりなのだけれど、それ以上のものがあって、どうしようもないのだ。

「──ねえってば。聞こえてる?」

好きな人が、隣にいるのだ。2人きりの教室。勉強を教えてほしいと頼まれ、快諾した結果がこれだ。ずっと上の空で、何もできない。焦って返事をしようとする。

「空、綺麗だねって」

ふと言われたその言葉に、窓から外を見る。建物と、木と、夕焼け空。暗くなってきた空の方に、煌めく一番星。ゆっくりと冷えていく空の彼方に、何年も前の光が笑いかけている。本当に、今まで見てきた景色の中で、いちばん美しいのではないかと思ってしまった。空がこんなにも大きいことなんて、知らなかった。しかしそれも、この人と一緒にいるからだということくらいわかっていた。

「こんな大空、久しぶりに見た」
「大空って。大袈裟だなあ」

あなたは知らないでしょう。
この大きな空の下で、あなたに何を言おうかと迷って成長しようとしている、小さな僕のことを。

12/20/2024, 1:12:15 PM

『ベルの音』

まだ桜は咲いていなかった。上着がなければ肌寒い。もう白い息は出ない。これでも、大分暖かくなったな。
この春、私は高校を卒業した。受験が終わったのも一ヶ月ほど前だ。というのも、私はもともと国立大学を志望していたのだけれど、学力の差には勝てなかった。どれだけ頑張っても、届かないものがある。大抵、それは時間が足りないからだ。それに気づくのが遅すぎるのだ。指先が真っ赤になる頃、さすがにもう無理だ、と諦めた第一志望校。けれど、どうにかして一人暮らしをしたくて、少し遠くにある私立大学を志望することにした。親に土下座した。親はそれに大反対だったからだ。そんなお金うちにはない、それくらいなら第二志望の国立大学に家から通いなさい、と。私はそれに大反対だった。こんなことを言う親がいない生活をしたいのだ、という本音は喉の奥に詰めて、本当にやりたいことが見つかったのだ、それを満足にできるのはここだけなのだと言った。もちろんそれは嘘だ。私の希望を押し通すための、汚らしい嘘。でも親はそれを信じて、応援してくれた。私は何とかその学校に合格して、一人暮らしを今日から始めることになるのだった。

「気をつけるんだよ。ちゃんと連絡してね」
「わかってるよ」
「あと、大学でちゃんとやりたいこと見つけること」
「……え?」
「あなたがそこに行きたくなるだけの魅力があったんでしょ、きっとやりたいこと見つかるから」
「いや、そこじゃなくて」
「……ああ、私はあなたのお母さんよ?子供の考えることくらいわかるわ」

私は愕然とした。親は、私が一人暮らしをするためだけに私立大学を志望していたことを知っていたのだ。それを知った上で、私の背中を押してくれていたのだ。
突然、暖かい風が吹いた。爽やかで、心地よい。向こうに見える木が葉を揺らしている。
不意に、電車の発車ベルの音がした。

「いってらっしゃい」

母親のその優しい声に、思わず涙が溢れそうになる。だけど、言わなきゃいけないことがある。私は何とかそれを我慢して、母親の目をまっすぐ見た。

「ねえ」
「なあに」
「──いってきます」

ありがとう、と言おうと思ったけれど、やめた。そんな言葉より、こっちの方がきっと良い。実際、あんな笑顔な母親の姿を、今まで私は見たことがなかった。
発車ベルの音が止まった。電車のドアが閉まる。ゆっくりと、私は母親の元から離れていく。

私、大人になったよ。
なんて言ったら、きっと笑うだろうな、と微笑みを零した。

12/20/2024, 8:19:49 AM

『寂しさ』

冬の夜の空気を、めいいっぱい吸ってやった。鼻がつんと痛くなる。そういえば耳も痛い。もういっそのこと、全部凍りついてしまった方が、幸せだと思う。空を見上げてみる。星が瞬いている。冬は空が綺麗だ。それゆえ、心がこんなにも痛い。私、もうこんな綺麗なひとにはなれないんだろうな。星が消えた。私は俯く。ポタ、と何かが落ちる音がした。馬鹿だな、泣いているらしい。
ねえ、誰か。誰かいないの。
誰もいない冬の夜。凍える空の下で、小さく呟いて、ついに座り込んで泣いた。ここで初めて、私はちゃんと泣いているんだとわかった。涙まで流したら、私にはもう本当に、汚い不純物しか残らない。涙は辛うじて、光に当てれば宝石みたいだって形容してもらえるけど、それ以外は何もない。私のこの、吐き出したくなるような寂しさ、虚しさ、つらさ、そういった類のものは、誰もが気持ち悪いと、助けてほしいアピールだと一蹴するものだ。もう、このまま消えてしまいたい。誰からも気づかれないように、そっと、記憶から抜け落ちるように。

「あれ、なにしてんの」

やけに暖かい声だった。私は振り向く勇気がなかった。だって、その声は大好きなあなたの声だったから。

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