『大空』
放課後になれば、少しばかり涼しくなる。吹奏楽部の楽器を吹く音が聞こえてきた。屋上の方からは応援団の練習している声がする。それに紛れて、どこかの部活の叫ぶような声。きっと、これは青春なのだ。それはわかってるのだ、わかっているつもりなのだけれど、それ以上のものがあって、どうしようもないのだ。
「──ねえってば。聞こえてる?」
好きな人が、隣にいるのだ。2人きりの教室。勉強を教えてほしいと頼まれ、快諾した結果がこれだ。ずっと上の空で、何もできない。焦って返事をしようとする。
「空、綺麗だねって」
ふと言われたその言葉に、窓から外を見る。建物と、木と、夕焼け空。暗くなってきた空の方に、煌めく一番星。ゆっくりと冷えていく空の彼方に、何年も前の光が笑いかけている。本当に、今まで見てきた景色の中で、いちばん美しいのではないかと思ってしまった。空がこんなにも大きいことなんて、知らなかった。しかしそれも、この人と一緒にいるからだということくらいわかっていた。
「こんな大空、久しぶりに見た」
「大空って。大袈裟だなあ」
あなたは知らないでしょう。
この大きな空の下で、あなたに何を言おうかと迷って成長しようとしている、小さな僕のことを。
12/21/2024, 1:03:28 PM