『冬は一緒に』
夜、好きな人と電話をしていた。さすがにうとうとしてきた頃、向こうからはしゃいだ声が聞こえてきた。何かと思い尋ねると、雪が降っている、と弾んだ調子の声が返ってきた。そうとう嬉しいらしい。彼はまだ子供なのだと思うと、妙なくらいに愛おしい。雪だるま作れるかな、かまくら作れるかな、雪合戦したいな、と楽しそうに話す向こうの声とは裏腹に、私はなんだか寂しかった。無性に寂しかった。何が、とかの宛がないのだ。考えてもわからず、適当に彼の言葉に返事をしていた。そうしていると、やけに耳にするりと入ってきた言葉があった。
「明日一緒に帰ろう」
一体、どんな文脈でそれが出てきたのか、見当がつかない。逆にいいの、と問うてみると、
「冬は一緒にいる人がいないと寂しいからね」
なんて、なんとも思ってなさそうな声で返事が来た。
罪な人。私の想いも知らないでそういうことを言うんだ。
でも、もうそこに寂しさなんてなかった。
『とりとめもない話』
あなたにはどうでもいいんだろうけど、
私にはかけがえのない宝物なんだよなぁ。
『風邪』
いけない、風邪をひいた。
絶対あいつに、馬鹿でも風邪ってひくんだなって言われる。風邪をうつしたくないのに、わざわざ近づいてきて煽るだろう。色々な意味でストレスだ。
いっそのこと、学校を休んでしまおうか。
いや、そんなことは。
私は少し体をふらつかせながら、学校に行った。別に熱があるわけじゃない。ちょっと頭が痛くて、ぼうっとするだけだ。あ、咳も少し出る。病人みたいな姿をしてるけど、元気なフリをする。誰かに、なんか今日いつもより元気ないねって言われても、寝不足なんて言えば納得してくれるだろう。だから、寝てるフリなんてすればもっとそれらしい。そうしていればいい。本当にこれが正しいと思った。
「はは、調子悪そ〜」
「……」
来た、ヤツだ。
「頭痛いのかなー?」
「……うるさい。……なんで体調悪いってわかったの」
「明らかに体調不良だろ。帰ればいいのに」
「やだね」
あなたとお話をして、一緒に帰るのを楽しみにしてるから、なんて絶対に言いたくない。
「あーそうですか!…ま、無理すんなよ」
「もちろん」
あなたは、こういうときだけ優しい。普段は、優しさの欠片くらいしかないのに。ある意味、あなたは残酷だ。私はきっと、その温度差で風邪をひいたんだ。それなら、この風邪をうつしてやった方が、私の想いも伝わるんだろうか。
『言葉はいらない、ただ・・・』
(このテーマ小説書くしかないので書きますもう!!)
夏休み明け、受験生の私たちはまずこう言われる。
「ここからはあっという間だからね。気を抜くなよ」
わかりきったことだ。もう聞き飽きた。気を抜いていたら、こんな辛い思いを今しているはずがないだろ。先生に怒鳴りつけてやりたいくらい__いや、大声で泣き出したいくらい__いや、何もできない。ただただ、耐える。それだけでいい。そうすることで、私の将来が明るければいい。この辛い思いも、いつかきれいな花を咲かせる肥料になるなら、喜んで受け入れよう。
「俺さぁ、昨日勉強できなすぎて萎えて泣いちゃってさ」
私の隣で勉強する友は言う。彼は頭がいい。勉強なんてしなくとも、その人間性で生きていけるだろうと思う。ただ、この人に負けるのは私のプライドが許さなかった。故に、私は彼に張り合うように言葉を紡ぐことを、もはや習慣としていた。
「私昨日13時間ね」
「お前さあ!!」
「勉強すりゃいいじゃんねぇ」
友の悔しそうな顔、それでいて少し緩んだ、その微笑み。私は、彼の笑顔が大好きだった。
今日もひとり、駅までの道を歩く。前までは、例の友とよく歩きながら帰った。今は、私と彼が違う場所で勉強しているせいで会えず、そのまま1人で帰ることが多い。なんだか、寂しい。隣にあった温もりがない。今は暑苦しいからいいけれど、受験本番の時期、もしここに温もりが残っていたら、私はその温もりに頼りすぎて、外に出られなくなってしまう。凍えてしまうからだ。
私がほしいのは、隣の温もりだ。言葉はいらない、ただ……ただ、「あなた」が隣にいてほしいだけだ。
そんなことを考えながら道を歩いていると、不意に誰かに肩を叩かれた。勢いよく振り返ると、子供っぽく笑った彼がいた。ただ、微笑むだけの彼がいた。
『突然の君の訪問。』
突然、「君」が私の家に来たらどうしようか。私がこのテーマで書こうと思った時、そこに「君」がいなかった。扉が開かれる瞬間の、あの眩しい光で「君」が見えなかった。そして今、こうして連なる字面を眺めている。こういう時、人はどういう人を思い浮かべるのだろう。大切な人なのか、もう会えない人なのか、会いたくない人なのか、会いたくて仕方ない人なのか。シチュエーションによって、その人によって全く異なる雰囲気を放つのが「君」という人だ。「君」だとか「あなた」だとか、一人称視点から描かれる人は本当に鮮やかなことが多い。いや、私が「君」を描くならば、どんな物語だったとしても、間違いなく、「私」は灰色、「君」は極彩色に描く。そのように定義付けされているかのように。なぜなら、「私」は「『君』のおかげで生きている」と言っても過言ではないほど、「君」の存在を大切に考えるからだ。「私」のそばにいてほしい人を、そばにいてくれる人を大切に考えるのは当たり前の話だ。
ここまで書いて、私の中にやっと「君」が現れた。私にとって大切な人だった。だから、今『突然の君の訪問。』という字面は輝いている。嬉しいからだ。
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君は僕の前に来て
隣に座って話をして
そうしていつしかは去っていって
そこに温もりだけが残って
僕はそれに凍えていて。