星空の下で
少年は貧しかった。
朽ちていくしか未来のない集落に生まれ、親もなく、余裕のない大人達から優しさなぞ期待していなかった。
独りで見る夜空は、星が細やかに瞬いていた。
少年は死体を漁った。
背徳はあるものの空腹がそれに優る。死者には無用の服やわすがな貨幣で食い繋いだ。
生き残る術を得た少年に、星が励ましているようだった。
少年は盗賊になった。
食わねばならない、他人なぞ知ったことかと己れを鼓舞した。助けてくれない大人から盗み、やがて一人をナイフで刺した。
初めて殺しをした夜は、星など見れなかった。
少年は傭兵になった。
碌に稼げない盗みより国という後ろ盾を利用することにした。長年のナイフ捌きの経験は少し学べば立派な戦力になった。
学ぶことが多すぎて、夜通し訓練した。
戦場は生きるか死ぬかだ。
国は少年ーーいや、青年になったーーを使い捨ての駒にしか見ていなかった。
高額な報酬と引き換えに、己れの命は保証出来ない。
けれどもそれは、子どもの頃と変わらない。
生きる為に殺す。躊躇いなんてない。
男だろうが女だろうが、善人だろうが悪人だろうが関係ないし、興味もなかった。
むしろ盗賊だった頃と違って罪にはならない。金すらもらえる。
青年は殺した。何人も何人も。
青年が生きただけ、死体の山が築き上げられていった。
ある夜、ふと天を見上げた。
星が綺麗だった。……気味が悪いぐらいに。
数が多い。灯りのない生まれ故郷でも、ここまでではなかった気がする。一つ一つの光は大きく、小さく、様々で。
意外と個性的なんだな、と思った。
そして、ふと思い出してしまった。他の国の傭兵仲間が話していた言葉を。
ーー星は、死んだヒトが成るんだって。
ひ、と声を上げる。
多い。数が多い。
一つとして同じではない輝きを持つ星が。
青年にのしかかるように、天から輝く。
囁くように。
話しかけるように。
何かを、訴えてくるように。
無数の星が。
明くる朝。
青年は行方不明になった。
周りにいた傭兵達にも、最後の姿を見たものはいなかった。
ただ、夜中に泣くような叫びを聴いた者が、幾人かいた。
それでいい
…なんて言っておいて
私がほんの少し、頑張れば
貴方は喜んでくれるはずだ
『頑張ったからこれ以上は…』って
優しい言葉をありがとう
でももう少し、この階段を歩かせて
脚ばパンパン、息も途切れ途切れ
それでもあと一歩、あと一歩
高い所で貴方を見下ろしたい
こんなに登れたんだよって報告したい
見渡す景色を教えたい
貴方はきっと同じことを言うでしょう
『すごいね。頑張ったね』って
私が登らなくても休んでいても
同じ言葉をくれるんでしょう
でも、笑ってくれるでしょう?
誰よりも何よりもその笑顔の為に
ほんの少しだけ、歩かせて
貴方が思うより大きくなった、成長した私を
いつか貴方の元に帰らせて
…ま、脚を滑らせたら元も子もないから
背中だけは、見守っていてくださいね
1つだけ
少年は飴玉を1つだけ、盗んだ。
露天商の主人が目を逸らした隙に、山積みにしてあったものを。
皿の上で太陽光に当たりきらきらと輝く、赤や緑や黄色の球体は、貴族が身につける宝石のように綺麗だった。
貧しい家に生まれた少年は、甘味なぞ食べたことがない。美しい飴玉は、憧れの塊だった。
きっと、1つだけなら分からない。
気がつけば少年は右手にそれを握りしめ、走っていた。
何色を盗んだのかは見ていなかった。
街の路地裏に隠れて、手を開こうとした時。
「おい、そこの」
血の気が引いた。見回りの兵士だ。
厳つい顔に、腰に剣を下げている。大柄なその姿は少年に近づくと暗い影を作った。
「手を出せ。両方だ」
少年は震えながら言われた通りにした。
取り上げられる、だけで済まないだろう。両の手を切り落とされるかもしれない。
恐怖に目をぎゅっと瞑って、手を開いた。
重みを感じた。
恐る恐る、まだ繋がっている手を見るために、目を開けた。
飛び込んだのは、色彩。
赤、緑、黄色。光が当たる球体が、たくさん。溢れんばかりに。
少年の手の中に、確かにあった。
「2度目はないぞ」
呆ける少年に耳打ちすると、厳つい顔の兵士は去った。
その後ろ姿に、何度も何度も礼を言う。
安堵と喜びと反省とが混ぜ込んで、ただ泣いた。
手の中で、最初に盗んだ飴玉は何色かわからなくなってしまった。
1つだけの小さな罪は、大きな優しさで塗り潰されたのだから。
大切なもの
大切だった。
だから、鍵をかけた。
檻は逃げ出さないようにではなく、
外側から傷付けられないようにだった。
大切だった。
だから、高い場所に置いた。
見上げればそこにいる、
女神のような存在にするために。
大切だった。
だから、歩けないようにした。
わかりやすい『弱さ』を与え、
誰かが手を差し伸べてくれるように。
全て、嘘だ。
どこにも行って欲しくなかった。
お前がいなくなったら、壊れてしまう。
一番大切だったのは、自分の心だけ。
お前自身はどうでもいいのさ。
お前自身は……。
大切だった。
だから、恨まない。
これだけは、本心だ。
空っぽの檻の中、腹部を刺された男は血を流し、やがて息絶えた。
エイプリルフール
お前に逢えて良かった。
お前がいるから生きていける。
生き方を教えてくれた。
嫌いだった春もお前がいるから悪くないって思える。
憂鬱な時は支えてくれる。
死にそうに辛い時も寝て起きたらお前がいるって思ったら起きられる。
ただ歳を重ねるだけだったのに来年はどうしようこうしようって予定たてて生活していくのが楽しい。
お前がいないと生きていけないってドラマみたいな陳腐な台詞だけど実感した。
いない世界なんて考えられないだから長生きして健康でいて外に出たら可愛い夫婦だねって言われるじいちゃんばあちゃんみたいになりたいです。
…さて、今日はエイプリルフールですがここで問題です。
俺はどこで嘘をついたでしょうか?
「最後の一文」
嫁は顔色一つ変えずに正解を言った。