千歳緑

Open App
4/26/2026, 2:55:18 PM

善悪



 善とは何ですか
 悪とは何ですか



 人を守ることは善ですか
 人を殺すことは悪ですか



 咎人の息の根を止めることは善ですか
 己の手を使わずに他者を唆すのは悪ですか



 殺しを躊躇うだけで
 他者から糾弾されるのは何故ですか



 幼子が仇討ちを断念したことを
 残念だとのたまう第三者は善ですか



 殺し屋が己の罪を忘れて
 普通に幸せだと気持ち悪いと思う自分は悪ですか



 正義を期待する一方で
 ヒーローに孤独や差別を期待するのは何故ですか



 何も悪くない一般人が
 理不尽に不幸になるのが楽しいですか









 貴方が神ならこう言うでしょう



『だってそうじゃないと面白くない』


 
 

4/25/2026, 1:29:06 PM

流れ星に願いを



「星なんかに願ったってしょうがない」

「だいたい、あれは消滅する瞬間に光るだけだろ? 自分が死ぬ時に他人の願いなんか知ったこっちゃないだろ」



 そう言ったのは、まだ子どもで。
 そんなファンタジーな夢を信じられないほど、悲しい思いをしてきたのは、想像に固くない。



 だから、流れ星。
 願わくば、この子どもに一目、見せてやってほしい。



『願いが叶う』と言われたら信じてしまう、ほど。
 美しいモノが存在するのだということを。



 この子どもが夜空を見上げる時。

 どうか、その輝きを一目。


4/23/2026, 1:47:53 PM

今日の心模様



 雨が降ると、ただ打たれる。

 捨てた故郷が雨ばかり降る所だったからか、身体が動かなくなる。
 郷愁か後悔か知らないけれど、そんな時は逆らわず雨に打たれていた。
 周りは呆れていたし、何度か熱を出したので迷惑そうな顔を隠しもしなかった。

 別に、共感して欲しいわけでもない。
 自分でも理解できない感情。

 ただ、雨音が激しいと周りの雑音も澄み切った音に変わるのが、耳に心地良かった。



 やがて、大人から一人、迎えが来るようになった。
 
 最初は傘を差し出す。俺は何も言わず立ち上がりもしない。
 痺れを切らして、荷物のように小脇に抱えて帰路に着く。

 俺は文句すら言わなかった。



 何度かそんなことがあったある日。

 そいつはいつも通り傘を持って迎えに来た。
 何を思ったのか、俺を見つけた途端に傘を折り畳んだ。
 当然、奴も濡れる。その日に限って大雨だったから一瞬だった。
 俺が何やってんの、って顔をしていると、腕を掴まれ背中におぶさわれた。
 
 嫌だった。
 子どもみたいで。
 もういない、両親にされたみたいで。
 初めて抵抗した。
 すると、そいつは嬉しそうに笑った。

「…何で笑ってんだよ」

 こんなガキに付き合って。
 ずぶ濡れになって。
 何でそんなに、笑ってるんだよ。

「嫌がらせ」

 悪びれもせず言いやがった。
 この野郎。
 せめてもの仕返しに、俺は奴の髪を思いっきり引っ張った。



 あの日以来、雨に打たれるのは辞めた。
 身体は相変わらず動かないし、雨音をずっと聴いていたい日もある。
 けれどあいつがまたあの運び方で迎えに来るなら、と無理矢理身体を動かす。

 帰る場所なんてない。
 背中に背負ってくれる両親もいない。

 けど自分で歩かないと。
 一緒に、濡れてしまう奴が出来てしまったから。



 まぁこっちが大人になってやるか。と。

 思わない、わけでもない。



4/22/2026, 1:46:29 PM

たとえ間違いだったとしても




 たった一滴。
 それだけで絶命することができる死の雫。
 それが入れられた杯の中身を。

 女は、何の躊躇いもなく、飲み干した。



 そういうゲームだ。
 二つの杯。当たれば賞金、外れたら死。
 ただし選ぶのは、飲む役である女ではない。

「わかっているのか?! 俺が失敗したら死ぬんだぞ」

「それが何?」

 選ぶ役の男は女に詰め寄った。
 杯の中の毒は遅効性らしく、すぐに効果は出ない。
 女のあまりの潔さに、失敗しても死なない筈の男が動揺している。

「良いのよ、間違っていても」

「良いのよわけあるか‼︎ 何で…っ」

「貴方が選んだから」

 女は笑った。あと数分の命かもしれないのに。

「貴方を信じた、命を賭けて。ただそれだけよ」

 男は絶句した。かける言葉が見つからなかった。

「それに…」

 女の、笑みが変わった。



「これで私が死んだら、貴方は一生私を忘れられないでしょう?」



 金より命より、価値のある選択だった。
 だから、躊躇わなかった。
 むしろこんな機会を与えてくれたことに感謝したいほどだ。
 普通の、間違えのない、正しい生き方なら訪れることのない機会。

 女は間違いなく、最も欲しかったモノが手に入る。
 この男の脳裏に、永遠に巣食うことができる。



「このゲーム、私の勝ちよ」



 たとえ間違いだったとしても、ね。

4/20/2026, 2:18:44 PM

何もいらない



 逢いたい人に逢えたら
 本当に何もいらない

 

 今の僕には色んなモノがある。
 親や家族。
 五体満足な身体。
 飢えや暴力で突然消えたりしない未来。
 心を閉ざして接しないで良い友人。

 これらは、前世の僕にはなかったモノだ。



 今の僕を、前世の僕が見たら何と言うだろう。
 羨ましい? 妬ましい? 殺してしまいたい?
 それだけ、僕は何にもなくて。
 寂しくて惨めで。
 来世は絶対幸せに生まれてやると、歯を食いしばって生きた。
 あの、長くはない一生。



 きっと僕は、誰が見たって幸せで。
 昔の自分が殺してしまいたくなるほど満たされていて。
 この平穏を投げ出したりしては。
 馬鹿だと、思うんだ。



 …ねぇ、前世の僕。
 それでも、僕は。

 逢いたい。
 生きている時は信用できなくて。
 最期まで信じることができなくて。
 それでも、僕の死ぬ間際。
 大粒の涙を流してくれた、君に。

 残してしまった君。
 一緒に笑い合うことができなかった君に。
 今世で、君が。
 生きているのなら。



 生きていて良かった、って。
 一言伝えられたら。



 それだけで僕は、何もいらないんだ。



 

Next