千歳緑 (※お題一日置きスタイル)

Open App

一年後



「冷凍保存した手作りジャムって、一年は大丈夫だと思う?」

「変な匂いがしなければ」

 仕事から帰ると、テーブルの上には約一年前の日付が書かれたジャムの塊があった。いちごのようで、もう解凍が進んでジップロックに水滴が散っている。

 弟が言うには、お隣からもらったようだ。

 奥さんの一周忌が済んで一段落していた所、ふと冷蔵庫の中身を整理しようと思い立ち、そこに、弟が煮物のお裾分けにやってきた。

 一年前、救急車やら葬儀屋やらで騒がしかった。その頃から私達はたまにお隣と細やかに交流している。

 部屋に上げてもらってコーヒーを頂いていると、ダイニングテーブルに並べられた食品が目に入った。そのうちの一つが、そのジャムだった。

「だいたいは買った冷凍食品だったんだけど、これだけ奥さんの手作りでさー。腹壊すからやめとけって言われたんだけど…」

 甘いものは好きらしいが、量が量なので処分することにしたらしい。燃えるゴミの袋に入れようとしたところ、無理やりもらったとのことだ。

 よくやった。私でも同じ事をする。

「…念の為、パウンドケーキにして火ぃ通そうか。
まぁ大丈夫。普通に腹壊すか、生ゴミに出してバチ当たるか、の違いだね」

「その考え方、好きだわー」





 そして、ホットケーキミックスでちゃちゃっと作ったジャム入りパウンドケーキ。
 夕飯後のデザートとして食べた瞬間、衝撃が走った。



「「美っっっ味っ!!」」



「え、何コレ? ジャムの量、贅沢したからだけじゃないでしょ? 市販品なんて目じゃないって」

「生のレモンの皮が入ってる。あとラム酒? ほのかに匂ってる」

「あーだから保存状態良かったのか。丁寧に作ったんだなー、まるでタイムカプセルじゃん」

「これ捨てたらバチどころじゃなかったわよ。もったいない。…というか、さ」

 もう一枚、とカットされたケーキに伸ばそうとした手が止まる。

「…良い物、作ってあげてたんだね。奥さん」

「……だな」

 しんみりしてしまった。
 ただのお隣で、挨拶しかしない、顔も碌に憶えていない人。
 亡くなってから、会いたくなるとは。

 束の間、静かになったリビングに、突如インターホンが鳴った。

 弟が出ると、玄関にいたのは渦中の人だった。

「昼間はありがとう。でもやっぱり気になって……もう食べちゃったかい?」

 振り返った弟は無言だったが、何を言いたいのはわかっていた。
 確か、ノンカフェインの紅茶があったはず。

「上がってください。焼きたてのケーキがありますんで」

 とりあえず、奥さんとの馴れ初めから話してもらおうか。





「俺、今度から料理のお裾分け持ってくの、怖いんだけど」

「精進あるのみ」

5/14/2026, 1:21:56 PM