千歳緑 (※お題一日置きスタイル)

Open App

後悔



「後悔した事は無いのですか」



 そう聞いたのは、誰だったか。



 一人は、平穏な未来が約束されていた。

 優しい母親と、不器用な父親。無垢な弟妹。
 無償の愛を、誰に許可を得る事もなく。
 ただ受け入れて少しずつ返す、当たり前の未来が。

 一人は、想い合った恋人がいた。

 組織を裏切り、手と手を取って。
 日の当たらずとも、静かな世界で。
 何より己の愛に正直になれる、かけがえのない日々が。



 あったかもしれない。
 しかし、無かったのだ。



 親を失い、残された家族を他所に預けるしか出来なかった少年には。

 生まれ育った組織から抜け出せず、結果的に恋人を見殺しにした青年には。



 あの時、他の選択肢があれば……。





「…時間の無駄だよ」
「もしもなんかに、興味ねぇよ」

 二人は言った。
 違う言葉で、同じような言葉を。



 後悔なんてしたら。
 捨ててきた大切なモノに何て詫びたら良いのだ、と。



 恨むなら恨め。
 悪党でいい。
 歩みは止めない。
 踏みつけて、犠牲にして、汚れ切ってしまって。
 それでも。



「…それでも、私は祈りますよ」



 いつか、綺麗じゃないとしても懸命に生きるアンタ達が。
 ただの悪として正義に倒されないように、と。






 

5/16/2026, 1:19:31 PM