「綺麗だよね」
「何が?」
「森山(もりやま)さんの事だよ」
「お前、姫華(ひめか)みたいなのがタイプなの?」
「タイプってか何と言うか…目が、綺麗…じゃない?」
「確かに綺麗だし姫華って可愛いけどさ」
「可愛い……かな」
「可愛いだろ、ズレてるな」
「いや、別に、言っちゃうと姉ちゃんの方が可愛いし…」
「あー、いたなーそう言えば」
「で、なんだよ姫華みたいなのって」
「ん?…言ったな、……率直に言うと姫華が佳奈(かな)の事いじめたらしい」
「らしい?本当か分かんないって事?」
「いじめられたって佳奈が同じクラスの男子に助けを求めたらしいけど」
「けど?」
「姫華はいじめの事否定してるんだ」
「成る程」
「ただそのクラスの奴らはさ、姫華が否定してるのにもかかわらず、完全に姫華が佳奈の事いじめたって信じてるみたいだぞ」
「ま、多分信じてる奴は事実かどうかも分からないのに一方的に相手を叩いて佳奈を守ってるつもりなんだろうね」
「クラスでも孤立してるみたいだし、話しかけてみれば?」
「んー、そうだね」
「いつ行くんだ?」
「昼休みにでも言ってみようかな?」
「俺も行く」
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「ちょっと待てよ!俺も行くっつったろ?」
「はいはい」
「あー、なんか教室の雰囲気まさにそれだよな」
「それって?」
「はぁ~、時間が勿体ない。行くぞ」
「おー」
「森山さん」
「…どうしたの?」
「ちょっと話したいことがあるから少しついてきてもらってもいい?」
「別にたいしたことないんだけど…」
「行く」
「そっか!良かった〜」
「何で?」
「辛いでしょ、教室はさ」
「……そうだね」
「源(げん)!行くぞ、何してるんだ」
「いや、あれ見てよ」
「は?」
「佳奈めっちゃ男子と女子に囲まれてる」
「そうだな、…やっぱ連れてこないほうがよかった」
「おい!なんか今小さい声で」
「言った言った、行くぞ」
「源!なんでこの教室に来たの?」
「佳奈、別になんでもないよ」
「佳奈!姫華がいるんだよ?それ以上そっちに行くと、また佳奈が傷つくかもしれないし」
「大丈夫だよ、えっと、源の後にいる男の人は?」
「こいつは一ノ瀬誠(いちのせまこと)だよ」
「誠くんっていい名前だね!好きになっちゃったかも」
「ありがとう」
「でも、なんで誠くんの後ろに姫華ちゃんがいるの?」
「今から一緒に昼飯食べるんだよ」
「私も行って良い?」
「ごめん、無理だよ」
「なっ、なんでお前みたいなのが佳奈の同行を断るんだよ!」
「信じられない」
「そうですか、ほら早く行くぞ、源」
「あぁ」
「ねぇ、やっぱり私も一緒に行くからちょっと待っててよ」
「さっきも断ったでしょ?無理なものは無理」
「なんで?」
「はぁ?お前こそなんでいじめてくる相手と一緒に昼飯食べたいんだよ、それに俺にだって拒否権はある」
「源は?源はいいって言ってくれるよね?」
「んー、悪いけどごめん」
「姫華ちゃんは?」
「ごめん」
「ってことなんで、じゃあ失礼しました」
「ね、なんであそこまで言ったの?」
「…森山さんをいじめるから」
「え」
「最近、元気ないだろ?ストレスとかもかかってるだろうし」
「そんなこと」
「わかるよ、前はさ森山さんの目はいっつもキラキラしてて見てると元気が出てきたのに、今はキラキラしてない」
「……」
「本当にいじめたの?」
「ううん、いじめてない」
「姫華、なんでこんな事になったのか話してくれないか?」
「うん」
10作品 ー君の目を見つめるとー 「続く」
「好きです」
いきなり告白されたんだ。
「今、なんて?」
「…もう言わない」
「もう一回!」
「むーりー」
笑った顔が星で照らされている。
「可愛い」
「へっ」
「もう言わない」
「……」
「お返し」
初めて会った日、君の横顔に恋をした。
「もう一回言ってくれたら俺も言う」
「……す…」
「す?」
「好き、です…」
「可愛い、照れちゃうなぁ」
「……嘘、照れてないでしょ?」
「照れてるよ」
「そういうの良いよ」
「どういう意味?」
暗くてよく見えなかったが、泣いているように見えたんだ。
「…泣いてる?」
「泣いてない」
「声震えてる」
「………付き合ってるんでしょ?私の友達と」
「友達…山田(やまだ)ちゃんの事?付き合ってなんかないよ」
「噂は?」
「なんの事?その噂のことは分かんないけど、少なくともお前からの告白は嬉しかったけど」
「返事、してくれるの?」
「何その質問、当たり前じゃん?俺もお前の事好きだったし」
「そっ」
「まさか、お前から言われるとは思っていなかったけど」
「それって」
「付き合う?」
「うん」
「泣くなって…」
「星、綺麗だね」
「あぁ、親父喜んでるかな」
「……喜んでるよ」
「今度、親父の墓参りくる?」
「行くよ」
その日は本当に星が綺麗で、きっと、親父も見てると思う。
「このまま付き合って、結婚することになったら、ここで結婚したいな」
「そうだね、ここで結婚しよう」
「気が早いな」
「言い出しっぺに言われたくないですぅー」
笑ってしまった。
でも、本当に…。
「えっ!?寝たの?もー」
「寝てない」
こいつと幸せになれたらいいな。
ー星空の下でー
僕が死んだのはある夏の日でした。
夏が終わりに近づいていて、風鈴が綺麗に音を鳴らしていました。
外からはつくつくぼうしの鳴き声も聞こえていました。
その夏の日は僕の愛犬、ハナの13回目の誕生日でした。
ハナは随分歳をとっていました。
元気がなくなってきていて、12回目の誕生日とは少し様子が違いました。
急に怖くなったんです。
ずっと一緒に育ってきたハナが死んでしまうのではないかと。
不安になって、どうにも落ち着けなくなったんです。
そんな僕の様子をみて、ハナが近づいてきました。
落ち着かせようとしてくれていたのでしょうか。
ハナに寄り添われて少し落ち着けました。
家には僕とハナの二人だけ。
親は仕事でいませんでした。
ふと、思いついたんです。
ハナと一緒に死んでしまおうかと。
その時はそのことしか頭になくて、その後の事なんて考えもしていませんでした。
台所に包丁をとりにいって自分の喉元に近づけたんです。
でも、そんなの一種の気の迷いから来ていた自殺願望だったんです。
当然、死ぬ勇気なんてありませんでした。
僕は心の中で言い訳をしてしまいました。
ハナが死んでから僕も死のうと。
そんなこんなで包丁はまた台所に返しに行きました。
「ワン!」
最後の力で振り絞ったのかもしれない、その時の状態からは想像もできないほど大きな声が家に響きました。
ビックリしました。
僕がハナを撫でているとハナはゆっくりと目を閉じてしまいました。
徐々に体温がなくなっていって、今から言う事は僕の勝手な想像なんですけど。
今思うと、あの鳴き声は、僕達への感謝だったのか、はたまた、なにかもっと別の意味を込めていたのかもしれません。
徐々に冷たくなっていくハナをそっと床に横たわらせました。
涙が止まらなくて、視界が歪んでいました。
拭いても拭いても涙が止めどなく溢れてきて、その状態のまま台所に行きました。
包丁を手にとってまた、ハナの横に戻ってきました。
死のうか迷ったんです。
結局、死なないことにしました。
ハナの分まで幸せになろう、って思って立ち上がったんです。
そう、あれは不意の事故だったんです。
立ち上がったひょうしに転んでしまいました。
何故なんでしょうか。
持っていた包丁はなんの偶然か僕の喉に突き刺さったんです。
痛いのと悲しいのと。
なんとも言えない感情になりました。
喉は焼けるように熱くて。
動くこともできないので、隣の方にそっと目を向けたんです。
隣にはハナがいました。
ハナを抱き寄せようと腕を伸ばしました。
目が重くなっていき、やがて真っ暗になりました。
僕が覚えているのはこのくらいですかね。
「はい、ありがとうございました〜」
こちらこそ
「今回のお話は後日放送いたしますのでぜひ見てみて下さい」
はい
「では、本日は本当にありがとうございました」
ーそれでいいー
「皆さん、注目してください!」
耳に響く甲高い声。
この声の主は先生。
私は昔からこの先生が苦手だった。
「えー!今日授業でやった事はしっかり覚えておくように!中学でも使いますからね、以上!」
「起立」
※今回の号令の仕方は一つの例です。また、こういった号令があるのかは分かりません
ガタガタと椅子の音がなる。
眠くて仕方ない。
重い体を持ち上げながら盛大にあくびをした。
「これで6時間目の授業をおわります。礼」
「「「ありがとうございました」」」
先生は授業が終るや否や黒板に宿題を書き出した。
「………これが今日の宿題です」
先生が黒板に書いたことは「一つだけの〇〇」だった。
誰かが聞いた。
「誰かと被っていても良いんですか?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
一つだけの〇〇か。
思いつかない訳では無いけど。
「例えを下さい」
「そうですね…、「命」などでしょうか」
「成る程、ありがとうございます」
命、……生命に関係するものにするか。
………死などでいいのか?
生命の対義語だ。
たった「一つだけの死」。
これでいいのか?
やっぱり帰ってから考えることにして、今は帰りの会に集中することにしよう。
それにしても、寝不足で眠ってしまいそうだ。
今日は早く寝よう。
ー1つだけー
「お兄さん!少しお時間いいですか?」
後ろから急に話しかけられて少し驚いてしまう。
「私ですか?」
「はい」
「…なんのようですか?」
一応聞いてみたものの、インタビューのようなものだろう。
話しかけてきた女性はマイクを持っており、その後にはカメラマンがぞろぞろと。
「皆さんの大切なものをインタビューしております」
「はぁ」
大切なもの?
「早速いいですか?」
「え?あ、はい」
「貴方の大切なものを教えてください!」
「少し待ってくださいね、考える時間を」
「はい」
………。大切なもの……。大切なものか……。何かあるだろうか?私はまだ20代。
人生経験も豊富とは言えない。
そんな私の大切なもの……。
「あ」
「なにか思いつきましたか?」
「まぁ、ぶっちゃけた話し、お金ですかね」
「お金は大切ですよね〜!」
「そして、私にとってお金の次に大切なものは「時間」なんです」
「時間ですか、理由を伺ってもいいでしょうか?」
「理由?…そうですね、理由…ぱっと思いついた事でも良いですか?」
「勿論です」
「私はまだ20代なんですけど、趣味も子育ても仕事も、時間が足りなくなってきて…」
「すみません、質問があるんですが聞いても大丈夫でしょうか」
「答えられる範囲なら…」
「では、まず趣味は何をなさっているのですか?」
「…料理作りですかね」
「成る程!いつ頃からですか?」
「いつ頃から…小学生くらいからですかね」
「そうなんですか〜、次にお子さんは何歳くらいなんですか?」
「1歳です」
「奥さんとはうまくいっていますか?」
「うまくいってますよ」
「家事って分けてたりします?」
「子育ては妻がやってくれているので、その他の家事はすべて私がやっています」
「奥さん、不満とかを言ってくることは無いんですか?」
「いえ、一応子育てもできる事は手伝っています」
「夜泣きはどのようにしているのですか?」
「3時以降は私が対応しています、といっても家の子はそこまで泣かないのでやったことは数えられる程度なのですが」
「お仕事は何を?」
「すみません、控えさせていただきます」
「ありがとうございました、続きをお話し下さい」
「あ、はい。っと、さっきも言った通り時間が足りないんですよね」
「……」
「…だから、これからも一日一日を大切に使っていきたいと思っているんです」
「はい」
「でも、手に入らない時間を求めるのは余にも時間の無駄なので、少なくとも役にはたつお金が大切かなって思っています」
「だからお金の次に時間が大切なんですか?」
「そうですね」
「因みに時間の次ってなんですか?」
「………知識、ですかね?もっとも、私は頭が悪いんですけどね」
「偏見なのですが、「愛」と答えると思っていました」
「なぜですか?」
「貴方には奥さんも子供もいるじゃないですか」
「そうですね」
「愛がなければ奥さんも子供もできないんじゃないですか?」
「私はこう考えています。知識があればお金も愛も手に入ると、時間は無理かもしれませんけど」
「本当に知識で愛が手に入るんですか?」
「はい、自分が本当に愛した人に、今までの知識を使って愛してもらう…ではダメですか?」
「それは、今の貴方なのですか?」
「昔、友人がそうやっていたのを見ていただけです。さっきも言ったでしょう?私は頭が悪いんです」
「そうですか」
「もしも本当に私の頭が良かったら、時間の手に入れ方も分かったかもしれません、大切な用事があるので失礼します」
「失礼ですがどちらに?」
「頭の良い友人の所に会いに行くんです」
「今日はインタビュー有難うございました」
「いえ、ではこれで」
私は笑顔で立ち去った。
まぁ、全て「頭の良い友人」の受け入れなのだが。
ー大切なものー